秋葉忠利著書 アメリカ人とのつきあい方 兵役登録 

兵役登録 

さて、現在のアメリカには微兵制はもうないのですが、ここでも登録制度は残っていま
す。十八歳になると、兵役のための登録をして、万一徴兵する必要が生じた場合、つまり
戦争が起って兵隊が必要になった場合には、すぐ十八歳以上の男性がどこにいるかわかる
ようにしておくためです。選挙の場合とちがって、兵役のための登録はアメリカ人の義務
です。
 いまのアメリカの制度は、日本の自衛隊と同じで、軍隊で働きたいと思う人だけが、職
業として軍隊に入る志願兵制度です。そのためアメリカの陸軍、海軍、空軍、海兵隊では、
テレビその他のメディアを使って「軍隊に入るとあなたの将来はすばらしいものになりま
す」という宣伝をしています。
 とくに経済的に苦しい若い人たちにとっては、軍隊に入ることで、自分の手の届かない
教育が受けられる、そして教育を受けることでその後の道も開けてくるわけですから、軍
隊に入ることは、たしかに魅力のある選択なのです。ただし、軍隊に入ると戦争に行く可
能性が生じます。軍隊に入った人すべてが戦場に赴くわけではありませが、軍隊に入れ
ば、常にその可能性はあるのです。それは、人を殺さなければいけない、自分も死ぬかも
しれないという可能性です。それとは別に、国そのものが軍隊をもって戦争をするという
 大前提に疑問をもっている人もいます・こういう人たちにとって、軍隊はとても抵抗の
ある組織です。
 ベトナム戦争は、一九六〇年代のなかごろからエスカレートしてきて、最終的には一九
七三年までつづきましたが、その間、戦争では死にたくないというアメリカの若者たちが
ずいぶん増えました。彼らは、なんとか兵役を逃れようといろいろな手立てを考えました。
 最初のうちは結婚していると兵隊にとられない、つまり優先順位が低かったので、あわ
てて結婚した人もいます。大学で理科系の勉強していると優先順位が低いことが知られて
くると、専攻を理科系に変えた人もいました。あるいは、いろいろなことを全部こころみ
て、それでも徴兵されそうなことがわかったため、隣国のカナダに、あるいはョーロこハ
まで逃げ出した人もいます。
 精神障害のある人、特定の病気にかかっている人も兵役を免除されました。私の友人の
マイクは数学者でしたが、知合いの精神科医に「精神障害がある」旨の診断書を書いても
らって兵役を逃れました。もう一人の友人ボブは、正直に兵隊になりました。数学のゼミ
の部屋から「きょう出発する」と言って出ていった姿は悲しげでしたが、幸い、数年後に
生きて戻ってきました。

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