マサチューセッツ工科大学(MIT)教授 マイケル・ダーツゾス5

分散システム
    
「大まかにいうと、分散システムの研究に年間250万から300万ドル使っている。これは、
われわれの研究所の予算の約半分である。分散システムといっても、機械の開発から、オペレ
ーティンダ・システム、分散システム用の言語、アプリケーションではオフィス・オートメー
ションとオート・プランニンダまで手を伸ばしている。
 機械はゼニス(Zenith)社とMITの協力で実現にこぎつけたが、いろいろ難しい注文をつけ
た。今年中に40台、来年110台この研究所に入る予定だが、研究者だけでなく秘書や事務
の人たちにも一台ずつ使ってもらう。主記億装置は8メガバイト、それに磁気ディスクが20
ガバイトという容量。1.000×1.000のポイント・バイ・ポイント・ディスプレイ装
置付き。もちろん、小型のパーソナル・コンピュータである。コミュニケーション・インタフ
ェースもある。値段は3万5000ドル(現在のレートで換算すると350万円)。
 実は4〜5年前、5万ドル以下で、メモリーをもう少し小さいものでよいからという条件で、
IBMとDECに協力を申し込んだのだが、そんなものはできるわけがないと断られた。その
後エレクトロニクス・キットで有名なヒース(Heath)社が乗り気になって仕事を始めたのだが、
HeathがZenithに買収され、Zenithがこのプロジェクトを引き継いだという経緯がある」
 趣向を凝らした部分があって当然だが、それは何だろう。
 「マイクロ・プロセッサーの進歩に対応できるように設計してある。つまり新しいマイクロ・
プロセッサーが現われたら、プロセッサーを付けてある古いカードを新しいプロセッサー付き
カードに差しかえて、それに合わせたコードを作るだけでよい。これに要する時間は6〜9人/
週間。今、モトローラ68000を使っているが、ザイログのZ8000インテル8086用のコードなども
作ってある」

次の段階は、機械同士をつなぐことになるわけだが、「分散化以外考えようがない」そうである。
その理由は数学的でとても分かりやすい。
「n2の法則というのがある。n人すべてを結ぶネットワークを作ると、n2のオーダーのラインが
必要になる。これをセントラル・コンピュータ1台を使って、タイムシェアリングで扱うと、50〜
100人ならよいが、情報市場が確立されて、10万人の単位になると扱いきれない。だから、独立の
コンピュータを使って分散化することが、どうしても必要になる。

 すると問題が生ずる。例えばいくつかのコンピュータで同じ仕事をすることもある。そのた
めの意思の疎通は、どうするのかということである。この問題を解くのには、人間社会をモデ
ルにするとよい。例えば企業聞でいろいろな情報が送受されているわけだが、この情報を理解
するのに相手企業について、何から何まで知っている必要はない。広告について担当している
広報室があるということだけ知っていれば、一応広告についての話はできる。それと似た考え
方で、分散システム用言語を作ろうという研究をしている。できるだけ小型で、しかも必要な
情報を伝達するという点では、できるだけ高能率のものを考えている」
これをすべてダーツーゾス教授が行っているのではない。例えば、機械とオペレーティング・
システムはスティーブ・ウォード教授、分散システム言語はバーバラ・リスコフ教授がそれぞ
れ中心になって進められている。ダーツーゾス教授の役割は「全体の管理。触媒だといっても
よい」とのことだが、これはあくまで彼の謙遜であろう。これだけの組織とかなり気まぐれな
研究者を統率していくには、それだけの政治力と人望がなくては勤まるまい。研究費の確保と
か、外部とのコンタクトなど、外からは見えない苦労も多いはずである。ストレスだけでも相
当なものになろう。それに耐える秘訣は何なのだろう。

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