マサチューセッツエ科大学(MIT)教授 ジョール・モーゼス2

『ザ・コンピュータ・エージ』はバランスの良く取れた本という書評が多かったが、実はワイ
ゼンバウム教授の書いた批判に対する反駁が初めはきつすぎて、それを和らげるのに苦労した
 (批判・反駁共に『ザ・コンピュータ・エージ』中の論文)」そうである。そのせいか、将来に
ついて、楽観的見通しを持つ人の中には、この本を余り高くかわない人も多いようだ。モーゼ
ス教授自身の未来像もかなり楽観的なものである。とすると、初めからバランスの取れた本に
するつもりだったのか疑問が生じてくる。
 「いや『ザ・コンピュータ・エージ』を書こうとした動機は、1974年にストックホルム
開かれたIFIP(情報処理国際連合)総会で耳にした意見が、あまりにも悲観的すぎると感
じたからだ。ちょうど、ダーツーゾス教授がコンピュータ科学研究所の所長に、私が副所長に
任命されたばかりだったのだが、われわれは内心、2、3年の内に犬きな転機が訪れることを
予期していた。その確信を基にして何をすべきか考えたのだが、 コンピュータ・サイエンスあ
るいはコンピュータ全般について、技術的な面だけではなく社会への影響なども考えに入れた
もっと楽観的な未来像を多くの人に提示することが大切だという結論に達した。それからこの
本の企画が始まった」
その結果、ある意味で1970年代のコンピュータ社会を総括する、幅の広い本ができた。
ペーパーバック版や訳書も各国で出版されたわけだが、何かつけ加えることがあるのではなか
ろうか。
 「まず最初に、基本的方向は変わっていないことを断っておきたい。つまり、マイクロ・エレ
クトロニクス革命が社会全体に深く影響を与えるだろうということ。その中でも、コンピュー
タ・サイエンスの外の世界、つまり応用面だがヽそこで起きることが社会に大きな変化をもた
らすだろうということだ。しかしふり返ってみると、『ザ・コンピュータ・エージ』の中で見逃
したことが三点ある。第一に、工業用ロボットの重要性を実際より軽く見たこと。ダーツーゾ
ス教授の論文は優れたものだが、ロボットを使っての産業革命が予想以上に早く進んでおり、
社会に与えている影響もかなり大きい。この点に、もう少し重きを置いても良かったと思う。

 第二に、ますます小型になっているマイクロプロセッサー・チップについての焦点が少しぼ
けた。チップの小型化が社会に大きな影響を与えるだろうとは予想したのだがヽチップを設計
する段階で、コンピュータのソフトウエア研究がこれほど大切だということには気がつかなか
った。最後に、コミュニケーション(通信)の重要性について十分理解できなかった」
 モーゼス教授は1941年に今のイスラエルで生まれ、13歳の時アメリカに移住。ニュー
ヨーク市のコロンビア大学で学士号と修士号を取得した後ヽ 1967年にMITから博士号を
授与されている。その後MITの助教授・准教授を経て、1977年に教授。以来、ずっと教
育と研究に従事してきている。

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