「顔をもったコンピュータ」 マサチューセッツエ科大学(MIT)教

 彼の語り口は、アメリカ的速さとニューョーク・アクセントに特徴がある。ニューョーク出
身のユダヤアメリカ人の喋り方と言ってもよい。身ぷり手ぶりにも同様に、ニューョークと
いう土地とユダヤの文化双方からの影響を見ることができる。そういえば日本でも有名なハー
マン・カーン博士も同じような喋り方やしぐさをした。
 だが、モーゼス教授の方がチャーミングである。といってもこれは、外見には何の関わりも
ない。外見は、カーン博士もモーゼス教授も、一世を風摩したゼロ・モステルが演ずる『屋根
の上のバイオリン弾き』の主役テビーのように、これまたユダヤアメリカ人の一典型を示し
ているからである。魅力の有無は雰囲気の違いに由来しているのかも知れない。カーン博士の
話には、分かる奴だけに分かれば良いという雰囲気があり、モーゼス教授の話には、相手に分
かってもらおうとする熱意が感じられるからである。やはりモーゼス教授は教育者なのである。
 『ザ・コンピュータ・エージ』中、モーゼス教授の担当は家庭におけるコンピュータだが、も
ちろん、教育に重点が置かれている。
 「ホーム・コンピュータあるいはマイクロ・コンピュータというとすぐに、コンピュータ・ゲ
ームやエレクトロニクス新聞といった単純なことを考えがちだが、私は10年20年先いった
いどんなことが家庭に起こるのかという問題に関心がある。例えば1990年〜95年になる
と、記憶装置や処理速度などの性能で、1975年の犬型コンピュータに匹敵するホーム・コ
ンピュータが実現するだろう。それが私たちの家庭に、どんな影響を与えるか考えてみたわけ
だ。
 もっとも、現在ホーム・コンピュータと呼ばれているコンピュータはほとんど、中小企業で
ビジネス用として使われている。だから、TRS80もAPPLE?も実際はビジネス用コンピ
ュータであって、本当にホーム・コンピュータとは言えない。今までのところではTI(テキ
サス・インスツルメンツ)社が家庭用コンピュータの分野では一番進んでいるようだが、その
TI社にしても、本物のホーム・コンピュータを作るには二つの大きなハードルを乗り越えな
くてはならない。
 その一つは価格のハードルだ。一般家庭でコンピュータを買うとすれば、それは500ドル
というマジック・ナンバー以下になった時だろう。大ざっぱに言って、カラーテレビ以下の値
段になることが必要である。ビデオ・ディスクなどにしてもやはり、このマジック・ナンバー
の壁を破る必要がある。

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