マサチューセッツエ科大学(MIT)教授 ジョール・モーゼス6

コンピュータ・サイエンスと教育

 碓かに正論ではあるが、社会から教育を切り離すのは難しいし、切り離してもそれだけが社
会ではない。その上教育といってもその意味する範囲もまた広く深い。アメリカの国内で目に
つく教育関係の問題をざっとあげてみても、数学や国語(英語)の学力低下から始まって、学
校内での暴力や規律の問題、卒業後の就職難、人種差別撤廃のための種々の政策の是非、宗教
や倫理を学校教育でどう扱うかという問題、母親の多くが仕事を持っている現状を踏まえての
学校と家庭の関係など、一筋縄ではとても解決できない問題が山積している。
 モーゼス教授はその中でも、学習における動機の問題が最も重要だと言う。
「教育問題をすべて解決できるような単純な方法は無い。しかし教育問題を解決するために使
える種々の道具のうちでは、コンピュータが一番優れているかもしれない。特に、コンピュー
タ・サイエンスは二つの点で大きな貢献ができる。まず、教育を楽しいものにすること。コン
ピュータを使ったことのある人なら誰でも、コンピュータが楽しいものだということを知って
いる。この楽しさを教育に導入することができる。もう一つは、データベースならぬ知識べー
スを利用したシステム(Knowledge Based System)を使って、生徒に成功とは何か経験させ、
学習への動機づけを行うことである。具体的な例をあげよう。普通、子供たちは大人にコント
ロールされ、環境にも制限を受けている。MITのシーモア・パパート教授は、この制限から
子供を解放して、創造性を伸ばすことを目指しての研究を続けている。コンピュータを活用し
て、子供が自分でコントロールできる環境を作り、その中で問題解決の方法を習得させようと
いうものである。創造性を伸ばすには問題解決能力が鍵になっているからだが、パパート教授
のシステムでは、一度テストでもらった70点が子供の心に汚点を残して、結局70点の人生
を送ってしまうようなことは起こらない。可能性は無限だ。12歳でノーベル賞をもらう子供
がでてきたら楽しいではないか。
 あるいはコンピュータ学習(CAI)についても、これまでとは違った利用の仕方がある・
例えば、七歳の子供がプログラムを書いて、六歳の子供に自分の知っていることを教えること
もできるだろう。
−−−「4十2はいくつか」「7」「バカ。もう一度やれ」「6」「良し。では次
の問題。3十5はいくつか」といった具合に進行する−−−−−六歳の子供は七歳の子供に比
べて本当にバカだから、七歳の子供が六歳の子供に実際に何かを教えることができる。このよ
うに、教えることによって子供たちに自信がついて行く。
 フロイトも言っているように、教育では自信を持たせることが大切だ。パパート教授の仕事
はそこに焦点を合わせていることになる」

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