マサチューセッツエ科大学(MIT)教授 ジョール・モーゼス10

 「われわれの作ったMACSYMAで犬切なことが二つある。第一に、コンピュータ・プログ
ラムにおいて”知識”が重要であることを示したという点。1955年から67年くらいまで、
人工知能(AI)の研究にはできるだけ一般的な方法を使うことが流行していたが、ファイゲ
ンバウムの医療診断システムとわれわれのMACSYMAは、知識ベースを使って成功した。
AIの新手法と評価されたゆえんでもある。第二にヽこれまで人間が集積してきた”使える数
学″とでもいうべき数学を、約二〇年かかってシステム化したということだ。これが成功した
のはヽ数学が比較的組織立った学問だという理由による。数学では、難しいあるいは複雑な問
題でも、そのデータ構造を分析したりより単純な小部分に分けたりして、とにかく料理できる
ようにしてそれを解いてきた。しかし組織立っているとはいっても、古典的な数学のやり方に
は、われわれから見ると目茶苦茶な所が多く、新しい数学を創り出さなくてはならない場合が
しばしばあった」
数学以外の分野でも、これまでの成果をある程度組織化できれば、MACSYMA開発の手
法を応用して同様なシステムを作ることができるだろうと考えたが、大前提に問題があるよう
だ。
 「他の分野と比べて、かなり組織化の進んでいる数学でさえこんなに手間がかかったのだから、
それ以外の分野でMACSYMAのようなものを作ることは難しい。だが、研究は進んでいる。
その一例として医療診断システムをあげることができる。医師は検査をしたり、患者に質問を
したりして診断を下すのだが、平均的医師が、すべての病気すべての症状に精通しているわけ
ではない。また医師は、自分たちの知識をできるだけ体系化しようと努力は続けてはいるが、
まだ数学ほどは体系化されていない。診断を神秘的な行為だと考えている医師も多い。こう説
明すれば、医療診断システムの難しさが分かってもらえるだろう。
 この方面の研究で今まで最高のものは、ピッツバーグ大学のマイヤー教授のシステムだろう。
内科関係では数千以上の数の病気があるそうだが、彼はその三分の二を網羅するデータベース
を作った。その性能も素晴らしいものだと聞いている。だが、ごのシステムが改良されても、
それが盲目で聾だということに変わりはない。触診や聴診は、ロボットエ学が驚異的な発達を
遂げないと、当分の間は無理だろう。診断システムの得意なのは問診だ。例えば三五歳の女性
で、二週間前には喉頭炎にかかり、二日前から血尿が出るといったデータが与えられた時威力
を発揮する。しかし、医者同士でも診断について意見の異なることはめずらしくない。すると、
診断という場面での知識とは一体何なのかという哲学的問題が生じてくる。ただ、多くの症例
を見ている方が、見ていないより有利だということはあるだろう。
 もっとも患者がこうしたシステムを使うことには問題がある。当然法律的な責任問題も起こ
ってくるだろう。プロダラム作成のコンサルタントとなった医師の責任が問われるだろうが、
残念ながらプログラマーの責任も問題になるかもしれない」
 こうして診断という行為も、ますます複雑になって行く。その複雑さは、これまたコンピュ
ータが処理する。というわけで、ようやく肝心の点、将来のコンピュータの役割に戻って来た。

広島ブログ
秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
より多くの市民に読んでいただくためにクリックをお願いします