マサチューセッツエ科大学(MIT)教授 ジョール・モーゼス11

人工世界の”数学”
   

「一言で言うと、これまで物理や化学などの自然科学において数学が果たしてきた役割を、将
来コンピュータ・サイエンスが人工的な分野で果たすことになるだろう。神の造った世界は数
学で、人間の作った世界はコンピュータでということだ。
 数学の歴史は、簡単さ、単純さの追求だとも考えられる。だが構成要素の一つ一つが単純で
もその数が増えると当然複雑性が生じて来るが、この複雑性に数学で立ち向かうことはできな
いだろう。人間や社会という複雑な対象を研究する学問、例えば、政治学・心理学・社会学
どを見ても、複雑性の処理については大した成果を上げていない。
 私は、この分野でコンピュータ・サイエンスが大きな貢獣をすることになるだろうと考えて
いる。なぜなら、コンピュータ・サイエンスではソフトウエアの研究に際して、常にこうした
複雑性を扱っているからだ。具体的かつ明示的に、コンピュータ・サイエンスが複雑性に対処
する方法を示すことになるだろう。もっともそれが直接、社会学といったものの役には立たな
いかもしれない。人間社会はコンピュータよりも複雑だからである」
−−−そのような将来を指し示す成果は、すでにコンピュータ・サイエンズで得られているのか?

「今までのところ大したことはない。しかもそのほとんどは数学の中に暗黙のうちに現われて
いる。例えば、数学でもタワーとか拡大ということを扱っている。いずれにしろ、十年先に
はもう少しまとまった結果が出てくるだろう。
 今までの話とは少し見方が違うが、物理学では初めに静力学があり、それから動力学が発達
した。コンピュータ・サイエンスでは逆に”動力学”が先で、ようやく”静力学”の時代に入
ろうとしている。つまり、簡単なアルゴリズムでも大きな”動き”を生じることは良く知られ
ているが、これが今までのコンピュータ・サイエンスの研究対象だった。それに対して、こう
したものをたくさん集めて、各ルーチンの機能など気にせず、数が多くなることだけからいっ
たいどういう状態が生じるのかを研究するのが静力学だ」

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秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
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