秋葉忠利 著書 “顔”を持ったコンピューター 第3章

秋葉忠利 著書 “顔”を持ったコンピューター
 いまから25年前、当時一流のコンピューター科学者10人に秋葉忠利がインタビューしてコンピュータの未来と人間の将来について書き上げたものです。シーモア・パパートの続きです。

ピアジエ十コンピュータ=パパート?
マサチューセッツ工科大学(MIT)教授
シーモア・パパート
Symour A. Papert


  身のまわりのモデル

 このアイデアを具体化する上で、歯車が役に立ったそうである。
「小さい時から私は歯車が好きだった。何を考えるのにも複雑にかみ合った歯車が頭の中に浮
かんでくる。ふり返ってみると、数学を勉強する上で一番役立ったのは、頭の中にあった歯車
のイメージだった。代数の時間に、初めて方程式を習った時にも、この歯車が何回まわるとあ
の歯車が何回まわってという具合に、具体的イメージとして方程式を考えることができた。と
ころが、頭の良し悪しにかかわらず、どうしても数学の分からない人もいる。歯車の組み合わ
せは複雑すぎるという人もいる。この違いはいったいどこにあるのか。
 それは、私たち一人一人の持っているモデルに関係しているように思う。何か新しい概念を
理解しようとする時、私たちはまず、自分に身近なモデルとかイメージを使ってその概念を解
釈する。続いてそれを咀孵、吸収して、概念がはじめて血になり肉になる。例えば私が方程式
という新しい概念を身につけたのも、歯車という私にとって身近なモデルを使って方程式を解
釈したことがその第一歩になっている。
 このことから、多くのモデル、しかも数学を学ぶ上で役に立つようなモデルを、小さいうち
に身につけることが大切だという結論を導くことができる。子供たちが身につけやすいモデル
は、当然、自分の身のまわりにたくさんあるものになる」
 将未、私たちのまわりにはコンピュータが氾濫するだろうことは識者の指摘を待つまでもな
い。そのコンピュータを子供の教育に活かそうと考えるのは自然だが、パパート教授がピアジ
エの理論とコンピュータを結びつけるにあたっては、さらに触媒が必要であった。ブールバキ
マービン・ミンスキー‐教授である。
 ブールバキは、フランス人を中心にした数学者のグループである。パパート教授の師、エー
ルスマンもこの一員である。ブールバキはここ数十年、現代数学を系統的に記述する目的で数
学叢書を編集・出版してきたグループである。パパート教授はそのブールバキが数学を一つの
構造としてとらえたことを高く評価する。しかも、子供に数学を教える上で、このブールバキ
の哲学が有効だと、考える。
 ミンスキー教授との出会いは、もっと劇的である。1961年にイギリスで開かれた情報理
論の学会で、二人とも同じ定理を証明したことに気づき、それ以来協力して研究を始めること
になったそうである。パパート教授は64年にはMITに移るわけだが、二人の協同研究の成
果がパーセプトロンの理論であり、その後も協同研究は続いている。こうして、コンピュータ
ヘの関心が高まり、それを教育の問題に応用する研究が始まった。

広島ブログ
秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
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