秋葉忠利 著書 “顔”を持ったコンピューター 第3章

秋葉忠利 著書 “顔”を持ったコンピューター
 いまから25年前、当時一流のコンピューター科学者10人に秋葉忠利がインタビューしてコンピュータの未来と人間の将来について書き上げたものです。シーモア・パパートの続きです。

ピアジエ十コンピュータ=パパート?
マサチューセッツ工科大学(MIT)教授
シーモア・パパート
Symour A. Papert


 LOGOとTURTLE    
 その研究はもちろん現在も進行中である。パパート教授を中心にしたこの研究グループはL
OGOグループと呼ばれる。LOGO(ロゴ)は狭義では、例えばBASICに代わるコンピ
ユータ言語を意味するが、こうした言語を使った教育の哲学をも意味するそうである。
「LOGOは小学校の1年生にも使えるやさしい言語だが、なかなか強力な言語で1ある。直
接命令の定義、座標系が不必要なことなど、子供たちが幾何を勉強するのにも適している。反
面、記憶装置はかなり大きなものが必要になる。これを使って子供たちはTurtle Geometry(亀
幾何学)を学ぶ。″学ぶ″というより、楽しく″遊ぶ″といった方が正確かもしれない。その
ために、LOGOグループは、初め小型モーター付きの機械亀を作った。子供たちがLOGO
を使って亀の動きをコントロールすると、亀のお腹から突き出ているペンが、床の上に模様を
描く。この機械亀にいろいろな模様を描かせようと努力する過程で、子供たちはLOGOと幾
何学の両方を学ぷというわけである。聞接的には、子供たちが自分たちのものの考え方、勉強
の仕方などにも注意を払い始めるという効用もあった」
 LOGOグループは現在このシステムをAPPLE?あるいはTI99/4といったマイコン
用に変え、そのdebugging(虫とり)中である。
 LOGOグループの研究室はMITのコンピュータ科学研究所や人工知能研究所と同じ建物
の3階にある。個人用の小さな研究室がいくつか、それより少し大きい部屋とだだっ広いホー
ルがある。マイコンが何台か無造作に置かれているが、下町によくあるテレビの修理屋のよう
な雑然とした雰囲気である。しかも、たくさんの人が出入りしている。だが、パパート教授は
一目で分かった。一番の年長者で、髭にふち取られた顔が柔和で物静かな空間を作り出してい
る。小柄で謙虚な人柄のようにお見受けした。
 そのパパート教授がマイコンの前に座ると、眼の輝きが違ってくる。目にも止まらぬ速さで
キーを打つと、画面には美しい模様が描かれていく。正方形、円といった当たり前の形だけで
なく、複雑な螺旋形や、飛んだり跳ねたりするボールなども簡単にできてしまう。
 画面には亀の位置と方向を示すための、亀を単純化した標識がある。それにいくつかの操作
を加えると、亀の辿った軌跡が画面に残って幾何学的模様を描くという寸法である。基本的操
作には、例えばFORWARD(進め)、RIGHT(右に曲れ)といったものがある。これを使って
正方形を描くには、
  TO SQUARE
  FORWARD  100
  RIGHT 90
  FORWARD 100
  RIGHT 90
  FORWARD 100
  RIGHT 90
  FORWARD 100
  RIGHT 90
  END
というプロダラムを書くことになる。これを縮めて、
  TO SQUARE
  REPEAT 4
   FORXVARD 100
    RIGHT 90
 END
としたり、あるいは、
 TO SQUARE:SIZE
 REPEAT 4
   FORWARD:SIZE
   RIGHT 90
 END
と正方形の大きさを後から指定することもできる。
 LOGOを使って子供たちが、どんなふうに勉強するものなのか、パパート教授に説明を続
けてもらおう。
 「円を描くには、
 TO CIRCLE
 REPEAT 360
   FORWARD 1
   RIGHT 1
 END
ということになるが、コンピュータのプログラムで大切なのはBugを見つけてDebugするこ
とである。亀の幾何学を“勉強”している子供が正三角形を描こうとすると、たいてい、
 TO TRIANGLE
 FORWARD 1
 RIGHT 60
と始める。これだと三角形はできない。そこでBugを見つけて、RIGHT120と直す。プログ
ラムにBugのあるのは当たり前で、肝心なのはそれを見つけてDebugすることだ。型を破った
考え方をすることも大切である。例えば、RIGHT120の代わりにRIGHT 30を4回くり返し
てもよい。これと学校教育の雰囲気・・・2十2の答は4だけで、5は間違い。しかもそれに手
を入れて正しくはできない。だから、間違った子供は劣等感を持ち始める・・・と比べると大きな
差がある。
子供が身体を使って、普通ならずいぶん先にいってから習う大切な数学的概念を体得できる
という利点もある。例えば円を描くには、前に一歩行ってから、進む角度を少し変えるという
動作をくり返せばよいが、子供たちは普通、亀に円を描かせる前に白分でこの動作をしてみる。
それをもとにして亀用のプログラムを書くのだが、プログラムに盛られているのは局所的情報
だけである。それが、大局的な性質を決定することを、子供は自分の目で見、感じることがで
きる。こうして、微分方程式の概念の初歩が体得できる。あるいは、それが円であっても多角
形であっても、始点に戻るまでには三六〇度方向を変えなくてはならないという位相的性質も、
亀にいろいろな図形を描かせているうちに、自然な形で身についてくる」
 今までの数学教育とはかなり趣が違う。いったい、どのような背景の中に亀の幾何学を置け
ばよいのだろう。
 マイコンを離れ、パパート教授のオフイスに場所を変えてからこのことを聞いてみた。

 LOGOとTURTLE
    
 その研究はもちろん現在も進行中である。パパート教授を中心にしたこの研究グループはL
OGOグループと呼ばれる。LOGO(ロゴ)は狭義では、例えばBASICに代わるコンピ
ユータ言語を意味するが、こうした言語を使った教育の哲学をも意味するそうである。
「LOGOは小学校の1年生にも使えるやさしい言語だが、なかなか強力な言語で1ある。直
接命令の定義、座標系が不必要なことなど、子供たちが幾何を勉強するのにも適している。反
面、記憶装置はかなり大きなものが必要になる。これを使って子供たちはTurtle Geometry(亀
幾何学)を学ぶ。″学ぶ″というより、楽しく″遊ぶ″といった方が正確かもしれない。その
ために、LOGOグループは、初め小型モーター付きの機械亀を作った。子供たちがLOGO
を使って亀の動きをコントロールすると、亀のお腹から突き出ているペンが、床の上に模様を
描く。この機械亀にいろいろな模様を描かせようと努力する過程で、子供たちはLOGOと幾
何学の両方を学ぷというわけである。聞接的には、子供たちが自分たちのものの考え方、勉強
の仕方などにも注意を払い始めるという効用もあった」
 LOGOグループは現在このシステムをAPPLE?あるいはTI99/4といったマイコン
用に変え、そのdebugging(虫とり)中である。
 LOGOグループの研究室はMITのコンピュータ科学研究所や人工知能研究所と同じ建物
の3階にある。個人用の小さな研究室がいくつか、それより少し大きい部屋とだだっ広いホー
ルがある。マイコンが何台か無造作に置かれているが、下町によくあるテレビの修理屋のよう
な雑然とした雰囲気である。しかも、たくさんの人が出入りしている。だが、パパート教授は
一目で分かった。一番の年長者で、髭にふち取られた顔が柔和で物静かな空間を作り出してい
る。小柄で謙虚な人柄のようにお見受けした。
 そのパパート教授がマイコンの前に座ると、眼の輝きが違ってくる。目にも止まらぬ速さで
キーを打つと、画面には美しい模様が描かれていく。正方形、円といった当たり前の形だけで
なく、複雑な螺旋形や、飛んだり跳ねたりするボールなども簡単にできてしまう。
 画面には亀の位置と方向を示すための、亀を単純化した標識がある。それにいくつかの操作
を加えると、亀の辿った軌跡が画面に残って幾何学的模様を描くという寸法である。基本的操
作には、例えばFORWARD(進め)、RIGHT(右に曲れ)といったものがある。これを使って
正方形を描くには、
  TO SQUARE
  FORWARD  100
  RIGHT 90
  FORWARD 100
  RIGHT 90
  FORWARD 100
  RIGHT 90
  FORWARD 100
  RIGHT 90
  END
というプロダラムを書くことになる。これを縮めて、
  TO SQUARE
  REPEAT 4
   FORXVARD 100
    RIGHT 90
 END
としたり、あるいは、
 TO SQUARE:SIZE
 REPEAT 4
   FORWARD:SIZE
   RIGHT 90
 END
と正方形の大きさを後から指定することもできる。
 LOGOを使って子供たちが、どんなふうに勉強するものなのか、パパート教授に説明を続
けてもらおう。
 「円を描くには、
 TO CIRCLE
 REPEAT 360
   FORWARD 1
   RIGHT 1
 END
ということになるが、コンピュータのプログラムで大切なのはBugを見つけてDebugするこ
とである。亀の幾何学を“勉強”している子供が正三角形を描こうとすると、たいてい、
 TO TRIANGLE
 FORWARD 1
 RIGHT 60
と始める。これだと三角形はできない。そこでBugを見つけて、RIGHT120と直す。プログ
ラムにBugのあるのは当たり前で、肝心なのはそれを見つけてDebugすることだ。型を破った
考え方をすることも大切である。例えば、RIGHT120の代わりにRIGHT 30を4回くり返し
てもよい。これと学校教育の雰囲気・・・2十2の答は4だけで、5は間違い。しかもそれに手
を入れて正しくはできない。だから、間違った子供は劣等感を持ち始める・・・と比べると大きな
差がある。
子供が身体を使って、普通ならずいぶん先にいってから習う大切な数学的概念を体得できる
という利点もある。例えば円を描くには、前に一歩行ってから、進む角度を少し変えるという
動作をくり返せばよいが、子供たちは普通、亀に円を描かせる前に白分でこの動作をしてみる。
それをもとにして亀用のプログラムを書くのだが、プログラムに盛られているのは局所的情報
だけである。それが、大局的な性質を決定することを、子供は自分の目で見、感じることがで
きる。こうして、微分方程式の概念の初歩が体得できる。あるいは、それが円であっても多角
形であっても、始点に戻るまでには三六〇度方向を変えなくてはならないという位相的性質も、
亀にいろいろな図形を描かせているうちに、自然な形で身についてくる」
 今までの数学教育とはかなり趣が違う。いったい、どのような背景の中に亀の幾何学を置け
ばよいのだろう。
 マイコンを離れ、パパート教授のオフイスに場所を変えてからこのことを聞いてみた。

広島ブログ
秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
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