秋葉忠利 著書 “顔”を持ったコンピューター第4章

いまから25年前、当時一流のコンピューター科学者10人に秋葉忠利がインタビューしてコンピュータの未来と人間の将来について書き上げたものです。第4章、建築機械(アーキテクチュア・マシン)グループの若親分、ニコラス・ネグロポンテのインタビューです。


建築機械グループ(アーキテクチュア・マシン)の若親分
    マサチューセッツエ科大学(M‐T)教授       
    ニコラス・ネグロポンテ
       Nicholas P.Negroponte 


   研究と財源

 ネグロポンテ教授の毎日は、とにかく忙しいの一言に尽きる。“建築機械グループ”のディレ
クターのほかに、MIT全学を挙げての“Arts in Media Technology ” と呼ばれるプロジェク
トの主要メンパーとしても活躍している。メディア・テクノロジーとは、いわゆるマスコミの
世界にコンピュータやコンピュータ・グラフィックスの分野での成果を取り入れて、マスコミ
を、もっとわれわれ個人に近づけることを目的としている。
 その他、各種企業のコンサルタントとしてもお座敷がかかるようだ。ビデオ・ディスクやコ
ンピュータ・グラフィックスなどの応用が主な守備範囲らしいが、「平均週三回は飛行機に乗っ
ている」そうだ。海外旅行も多く、10月にはIFIP(情報処理国際連合)主催の世界コン
ピュータ会議に出席のため日本とオーストラリアを訪れ、12月にはメディア・テクノロジー
のPRのため再び訪日という。こうした殺人的なスケジュールにもかかわらず、インタビュー
の時間を取ってくれたうえ、「他のグループと一緒で良ければ、デモンストレーションもお見せ
しましょう」という申し出にすっかり感激して、ある木曜日の朝MITの建築学科を訪問した。
「他のグループ」とは海軍の技術研究所の人たちとNHKの総合技術研究所情報処理研究部の
相沢輝昭氏だったが、海軍グループは遅刻のもようである。「一日に最低5〜6件は見学の申し
込みがあるが、その全部にはとても応じきれないのでほとんど断っている。われわれの研究の
スポンサー、例えば今日来ることになっている海軍とか、その他の重要な人たち、例えばあな
たがたお二人のような場合は何組か一度にデモンストレーションをすることで勘弁してもらっ
ている」と、最初からおだてられた。これがお世辞に聞こえないところは、ネグロポンテ教授
の人柄であろう。海軍グループを待つ間、研究とその財源の話になった。
「60年代の後半、学生運動からの圧カでMITは防衛関係の機密研究とは縁を切ることにな
った。だから、今行っている研究の結果もいずれ公開される。もっとも、われわれのグループ
の研究は基礎的なもので、もっと具体的な応用については、例えば海軍自身あるいは他の研究
機関で行っているはずだ」
 ・・・・・陸軍や海軍の技術研究所とか国防省の高等研究計画局とい
った所からの委託研究が多いようだが。
「以前は、NSF(国立科学財団)からも研究資金をもらっていたが、その官僚主義に辟易し
た。世間の評価とは少し違うかもしれないが、それに比べて国防総省関係の研究所には、“創造
する” とはいったいどういうことなのか本当に良く分かっている人が多いように思う。軍人の
中にも一流の劇作家や写真家がいるし、基礎研究の重要性を理解している人も多い」
 この手のNSF批判をする人の数は増えているようだ。一方、国防関係の機関は国防に役
立つという口実とちょっとした魅力さえあればどんな研究にでも金を出すという批判もある。


広島ブログ
秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
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