秋葉忠利著書 “顔”を持ったコンピューター 第4章

いまから25年前、当時一流のコンピューター科学者10人に秋葉忠利がインタビューしてコンピュータの未来と人間の将来について書き上げたものです。第4章、建築機械(アーキテクチュア・マシン)グループの若親分、ニコラス・ネグロポンテのインタビューです。


建築機械グループ(アーキテクチュア・マシン)の若親分
    マサチューセッツエ科大学(M‐T)教授       
    ニコラス・ネグロポンテ
       Nicholas P.Negroponte 



 LIPSYNCH
 メディア・ルームの隣にこのグループの本部とでも言うべき大部屋がある。ガラス張りで外
からも覗けるようになっている内部には、CRT付きのターミナル、ビデオ・ディスク・プレ
ーヤー、アンプ等々といった機械が “ 芸術的 ” に配置されている。飛行機の航空管制室あるい
は放送局のスタジオと似た雰囲気である。
 ここでまずLipsynch(唇同調)と呼ぱれる人工発声装置を見せてもらった。キーポードを使
って単語をインプットすると、スピーカーからはその単語の発音が聞こえてくる。それと同調
して、CRT上の大きな唇が動く。あたかも絵に描いた口が喋っているような惑じである。音
声も悪くない。合成された音声だということはすぐわかるが、“ Welcome to Aspen ” くらいの
表現なら十分聞くに耐える。日本語はどうかというので、「相沢」と入力してもらったが、出て
きたものは「イザワ」であった。もっとも「イタリアン」を「アイタリアン」と発音する人も
多いアメリカのことだから、「イ」と「アイ」との発音を間違えるのは必ずしも機械のせいだけ
ではないかもしれない。


 TRAVEL

 そのすぐ横のテーブルには何台かのCRTが置いてあり、アンディ・リップマン助教授と研
究員のウォルター・ペンダー氏に、Travelというシステムを紹介してもらった。
 「ある町の様子を知りたいとしよう。実際にその町に行けばそれに越したことはないが、それ
が不可能な場合Travelが役に立つ。その町を車で訪問すると、いったいどんなものが目に付
くかを、写真と音を使って説明するシステムだからだ」ということでボタンを押すと、CRT
上にはアスペン市の地図が現われた。自分が通りたいと思う道順を地図上で指でなぞり、FOR
WARDという文字を押すと、画面は変わって映画になる。車に広角レンズ付の映写機を積ん
で、地図で示した道をドライプしながら撮影した映画を見ていると思えばよい。画面を押すだ
けで、車のスピードを変えることもできれば、後戻りすることもできる。その上「角を曲がる
こともできるし、通りの両側にある建物の″内部″にある情報を取り出すこともできる」ので
ある。
  画面の下にある右折の矢印を押すと、たしかに次の曲がり角で車は右折した(つまり、右析
した車から見える景色が画面に映った)。STOPという表示を押して″車を止め″、右側に見え
る薬局の看板を押すと、薬局の中で働いている薬剤師や棚に並んでいる薬、化粧品を選んでい
る買物客の写真が現われた。季節を変えることもできるし、写真の代わりにアスペンの町並を
カラーのアニメーションで見ることもできる。
 「このシステムにはインター・データのコンピュータで半メガバイトの容量のものと、メディ
ア・ルームと同じビデオ・ディスク・プレーヤーを二台使っている。一台のプレーヤーがある
景色を映している間に、二台目のプレーヤーは次の曲がり角の部分はどこにあるのか探してい
る」そうである。
 アスペンの町角を何度も曲がったり戻ったり店の様子をのぞいたりしているうちに、往年の
テレビ番組「ミッション・インポッシブル(日本語タイトル“スパイ犬作戦”)」を思い出した。
ソ連とおぼしき某国内にアメリカの町と寸分たがわぬ町を作り、アメリカに送り込むスパイの
教育をするというエピソードがあった。その代わりに Travel を使えば・・・・・という“名案”が浮
かんだのだが、すでに昼食時、腹が減ると思考の質も低下するようだ。


広島ブログ
秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
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