秋葉忠利著書 “顔”を持ったコンピューター 第4章

いまから25年前、当時一流のコンピューター科学者10人に秋葉忠利がインタビューしてコンピュータの未来と人間の将来について書き上げたものです。第4章、建築機械(アーキテクチュア・マシン)グループの若親分、ニコラス・ネグロポンテのインタビューです。


建築機械グループ(アーキテクチュア・マシン)の若親分
    マサチューセッツエ科大学(M‐T)教授       
    ニコラス・ネグロポンテ
       Nicholas P.Negroponte 


  生いたち

 講義を終えてネグロポンテ教授の研究室に戻ると、テーブルが大きな蛇に占領されていた。
サン・テグジュペリ作『星の王子さま』にも出てくる王ヘビである。大学院生のペットで研究
室のマスコットにもなっている。
 「一週間に一度エサをやれぱよいから手もかからない。まったく人畜無害だから安心してよい」
という飼い主の話だったが、蛇ににらまれ、しかもチョロチョロ動く赤い舌の行方を気にしな
がら人の話を聞くというのも骨の折れるものだ。・・・・・一週間後、テキサス州でペットとして飼
われていたニシキヘビがオリを破って、隣の部屋で寝ていた生後七ヵ月の赤ん坊をしめ殺すと
いう事件が報じられた。「人畜無害」といってもあてにはならない・・・。
 「プラスチックのコップは絶対使わない」というネグロポンテ教授にコーヒーをいれてもらい、
インタビューを続けることになった。
「生まれはニューョーク。両親はギリシャ出身で、父は小船主。小さい時から家ではフランス
語を喋り、スイスで教育を受けた。妻は専業の主婦で、10歳の男の子がいる The Computer
Age の表紙の写真のモデルに使おうとしたのだが、じっとしていないので結局一緒に来ていた
親友におはちが回ってしまった。本が出て少しの間ふくれっ面をしていた。
 趣味はあまりないが、冬はスキー、夏はスキン・ダイビングに出かける。父がオリンピック
のスキーの選手だったので、小さい時からスキーをはいて育った。読書は大嫌い。読まなくて
はならないものは飛行機の中で読む。新聞は、家内が読んでおもしろそうなニュースだけ内容
を要約してもらう。ところで、日本へ行く飛行機の中で読んだパパート教授の Mindstorms はおもしろかっ
た」                                                                                                            ・・・・・日本を初めて訪問したのは?
 「学生時代、夏休みに父の船で日本を訪れたのが最初でそれ以来8回は行っている。すしもさ
しみも大好きだが、文化や言葉の違いで日本人と直接コミュニケートできないのが残念だ」
 ・・・・・日本への期待は?
音声認識の分野では日本がりードしているが、この頃向はこれからも続くだろう。コンピュ
ータの産業や科学の日本での成功は驚くべきものだ。それに関連して、アメリカ人一般の考え
方におもしろいところがある。アメリカ人は車を生産することに大きな誇りを持っている。そ
で日本が進出するとめくじらをたてるほどだ。ところが、ビデオ関連機器はほとんどす
ベて日本製であるにもかかわらず、これには何の興味も示さない。アメリカでも作れるという
ことさえ頭にないのではないだろうか」
 ・・・・・日本への苦言は?
 「知的柔軟性があってよいのではないか。肩肘を張っているばかりでは疲れるだろう。二年前、
日本の企業で講演をした時に、『次代の電卓はどんなものになるか』という質問が出た。日本で
の食費の高さにびっくりしていた時だったので『食べられる計算器がよい』と返事をしたのだ
が、誰も笑わなかった」
 最後に現在の世界で最も重要な問題は何だと思うかと聞いてみたが「政治にはまったく興昧
がない。人に聞いてもらうほど気の利いた意見も持ち合わせていない」という答であった。


広島ブログ
秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
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