秋葉忠利著書 “顔”を持ったコンピューター 第5章

 いまから25年前、当時一流のコンピューター科学者10人に秋葉忠利がインタビューしてコンピュータの未来と人間の将来について書き上げたものです。今日は第5章、コンピューター付空飛ぶ“ノア”、エドワード・フレドキンへのインタビューです。

   コンピュータ付空飛ぶ″ノア″
MIT教授・ THREE RIVERS COMPUTER CORPORATION 社長 
   エドワード・フレドキン
   Edwerd Fredkin


計算の物理学

 つづいて、コンピューター科学におけるフレドキン教授の業績に話が移った。IMITでの地位、
コンピュータ科学界での評価を考えると、多岐多様にわたる仕事をしているはずだが、御本人
は過去に執着がないようである。
「まず、論文は一つだけしか書いたことがない。アイデアはたいていほかの人に話してしまう
ので、うまくいくとほかの人が書いて論文という形にはなるのだが、誰がどういう論文を書い
たかまでは知らない。この間も、スリー・リバーズ゜・コンピュータ社にコンピュータを買いに
来た人から、『フレドキンというと、あのフレドキン・トランスフォームのフレドキンか』と聞
かれた。いろいろ考えてみたが、結局どのアイデアがフレドキン・トランスフォームと呼ばれ
るようになったか分からなかった。かなり昔に、セリュラー・オートマトンに興味を持ってい
た頃の仕事らニしいことは確かなのだが・・・・・」                       
 というわけで、現在と将来の研究内容に的を絞ることにした。フレドキン教授が現在興昧を
持っている分野は三つある。まず、『物理学とコンピュータ』。それから「ロボット学」。最後に
 「未来の枝術と社会」である。筆者は特に、最後の分野に興昧をそそられたが、ほかの二つも
話を聞いてみるとユニークであり、おもしろい。
 「5月に、IBMのロルフ・ランダウアーと私が組織して“ 計算の物理学(Physics of Computation )
にについての会議をボストンで開催することになっている。例えば、ビリヤードの球をモ
デルにして計算機の慟きを説明しようということだ。 一つのボールが転がって行ってほかのボ
ールに当たる。すると古典力学の法則に従゜て二つのボールの動きが変わる。これと同様の仕
方で、コンピュータの慟きを理解できる」
 と言われても、ピンとこないのが素人の素人たるゆえんである。もう少し分かるように説明
してもらった。
 「これまで、計算(Computation)あるいは計算の理論というものは、数学の一部だと考えら
れてきた。私たちは、それを物理のT分野と見た方がよいのではないかと考え始めている。計
算の分野に属することで、物理的概念を使った方がより的確に説明できることが多いという事
実に最近気がついたからだ。例えば、情報をどう定義するかは難しいが、その情報の動きを見
ているとご價報保存の法則″が成立するように思われる。
 それ以外にも視点を変えることによって、今まで見えなかったことがずいぷんはっきりして
きた。そういった例を、ここにある一年前に出版されたVLSIの教科書から拾ってみよう・
教科書には、それが出た時占で一番進9\24見解″が集められているはずだがヽその中にもず
いぶん多く誤りがあることを私たちは発見した。具体例の一つは『スイッチ装置の状態を変え
るにはエネルギーが必要である。こうしたスイッチを使った論理回路が作動するには最低限
……の千不ルギーが必要である』という説明だ。これは誤りで、エネルギーを消費する必要は
ない。あるいは『古典物理学を使って情報の記憶という機構を説明することはできない』とも
書いてあるが、私たちの研究では古典力学こそ、この機構の説明にうってつけのものだという
ことになる。
 この教科書の中にも理由が述べられているが、今あげたような教科書の記述があるのは、そ
れが正しいという証明がなされたからではない。たんに、これまで反例が見つからなかったか
らに過ぎない。われわれの研究の一成果はこうした反例を多数発見したという点にある」


広島ブログ
秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
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