秋葉忠利著書 “顔”を持ったコンピューター 第5章

 いまから25年前、当時一流のコンピューター科学者10人に秋葉忠利がインタビューしてコンピュータの未来と人間の将来について書き上げたものです。今日は第5章、コンピューター付空飛ぶ“ノア”、エドワード・フレドキンへのインタビューです。

   コンピュータ付空飛ぶ″ノア″
MIT教授・ THREE RIVERS COMPUTER CORPORATION 社長 
   エドワード・フレドキン
   Edwerd Fredkin


     1本足のロボット    
   

 フレドキン教授の興昧は物理学に止まらない。数学にも関心がある。なかでも数論が趣味だ
そうだ。
 「とにかく、プログラムを書く速さでは人に負けないが、それを使って10の100乗以上の
数の素数対を見つけるといったようなことをやっている。新しいテクニックが見つかったと聞
くと、すぐに自分でプログラムを書いて試してみられるのが強みだ」と言う。だが、何といっ
てもカリフォルニアエ科大で専攻するつもりだった物理学に一番強くひかれているようであ
る。ロボットヘの興味もヽどうもそのあたりから生まれたようだ。
 「実は、今指導している学生が1本足の歩行機械のシミュレーションを終え、これを試作する
段階にきている。二本の棒を継手でつないで、センサーが足の部分と床とのなす角度、それに
膝の部分で二本の棒の作る角度を測り、モーターが膝の角度を変える。これだけで、床の上に
横になっている “ 足 ” が立ち上り、とんだり跳ねたりする。そもそもこんなものが歩くことは
おろか、バランスを保つことさえ可能だとは考えられないかもしれないが、不動点定理を基に
して、バランスが無限小だけ変化しても、トルクをコントロールすることでそれを元に戻すこ
とができるという結論を得た。1本足にしたのは、問題解決法の常套手段を使ったまでだ。新
しいアイデアを得るには、状態を極端な場合にまで変えることが有効だ。ロボットから始めて、
一番簡単な自動機械ということで1本足に辿り着いた」
 極端な場合を考えるということからは、受験数学を思い出すが、1本足なら王選手。あるい
はそのうちにフレドキン教授製作の傘のお化けや、一つ目小憎が遊園地の化物屋敷に登場する
ことも考えられる。


 未来の世界・核戦争後の世界   
 「まず断っておきたいのは、私が未来の世界を想像する時、それは戦後の世界だということで
ある。それも、この次に起こるであろう核戦争の後という意味だが、第三次世界大戦後も人類
が生き残れるだろうと考えている点で私は楽観主義者だ。現在の社会では受け入れられていて
も、″戦後″の世界から核戦争をなくすために、変えなくてはならないことがたくさんある。国
家の主権という考え方は消えていくだろうし、平和のために世界共通語が必要になるかもしれ
ない。その言葉だけで喋るというのではなく、誰でも自国語以外にその言葉を喋るという意味
での共通語だ。
 そういう世界で技術の果たす役割となると、例えぱ武力による衝突を回避するための技術的
解決策が考えられる。国家主権がなくなっている世界だから、国が戦争をすることは許されて
いない。軍隊も持っていない。だが、世界のどこかで小競合いの生じることは十分あり得る。
そのための警察力を持つ世界機構が必要である。これは軍隊ではない。軍隊と警察の違いは、
戦争で兵隊を殺しても罪にはならないが、警官を殺せぱ殺人罪になるという点だ。
 さて衝突が起こったとすると、それが世界のどこであっても2、3時間のうちに200人、
300人の国際警察官を派遺する。そのためにジヤンボ゜ジェット機を使ったり、警官の常駐
地を考えたりして、どうしたら最低の費用で最大の効果があがるかも計算済みだ。さて、その
後は一時間に一、二万の単位で警察力を投入して、一週間後には百万単位の警官が紛争の起こ
った場所に到着する。敵を撃とうとしても、警官が多すぎて撃てないという状態になる。同時
に紛争の種になった問題を、交渉で解決するようにもっていく。ここで、スタンフォード大学
のジョン・マッカシー教授の提唱したような、意思決定のための論理計算理論とでもいうべき
ものが有効になるかもしれない。完全なものではなくても、まあまあ使い物になる程度であれ
ばよい。
 こうした意思決定のための論理計算理論ができれば、使い道はたくさんある。例えば、現在
外国人がアメリカヘ入るのにはビザが必要だが、この論理計算を使ってビザを廃止した方がア
メリカの国益になるという結果が出たとしよう。それに反して国は反論する義務を持ち、もし
反論できない場合には別に法律で決めた冷却期間を経た後、ビザが廃止されるようにする。も
ちろん、この決定を下す計算には経済についてのコンピュータ・モデルが必要だし、アメリ
の国家威信とか、ある人びとの判断といった、測定不可能なものを考慮に入れなくてはならな
い。現状維持の方が現状を変えることよりはるかにやさしいという状態が改善されることが大
事だと思うが、その第一歩として何らかの意昧で社会が理性にのっとって動き始めるという点
が大切だと思う。
 社会主義は、こうした方向への試みの元祖だとも言える。しかしうまくいかなかった上、現
在ではお門違いのことに使われている。同時に社会主義が扱い解決しようとする問題もまた、
的はずれだ。社会主義は食糧が足りないことから生じる問題には解答を与えているが、食糧が
足りている場合は論じない」             
 こうして穏やかに、にこやかに話されると、つい内容まで快いもののように思えてくるのは
不思議である。初めの予定ではたっぷり2時間ということだったのだが、ピッツバーグ行の飛
行機の便数が少ないとのことで1時間弱のインタビューに変更されたため、反論は後回しにし
て、まずフレドキン教授の話を聴くことに専念した。

広島ブログ
秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
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