秋葉忠利著書 “顔”を持ったコンピューター 第5章

 いまから25年前、当時一流のコンピューター科学者10人に秋葉忠利がインタビューしてコンピュータの未来と人間の将来について書き上げたものです。今日は第5章、コンピューター付空飛ぶ“ノア”、エドワード・フレドキンへのインタビューです。

   コンピュータ付空飛ぶ″ノア″
MIT教授・ THREE RIVERS COMPUTER CORPORATION 社長 
   エドワード・フレドキン
   Edwerd Fredkin


人間性を豊かにするロボット

 ここまで話した時奥さんとお嬢さんから電話がかかってきた。家族については「子供が3人。
一番上が22歳、次が20歳でこの二人は女の子。一番下が18歳の男の子で今秋から大学に
行く。上の娘はバーモント州に住んでいて、美術とかフアッション、デザインといったことに
関心を持っている。下の娘はサンフランシスコ住いの大学生。今日誕生日で、お祝いに送った
テープレコーダーが気に入ったと電話をかけてきた。三人とも、1年半程前に別れた先妻との
間に生まれた子供だ」そうだ。   
「もう空港に行く時間だが、一緒に空港まで来てくれれば車の中で話が続けられる」というこ
とで、階下で待っているフレドキン夫人と落ち合うことになる。若くてチャーミングな黒人の
奥さんで、スリー・リバーズ・コンピュータ社では御主人を助けて財務面を担当しているとの
ことだった。
 MITのコンピュータ科学研究所の外は小台風級の風が吹き荒れていたが、未来社会の話は
まだ続いた。
 「これからの産業で一番大切なのは、ロボットだろう。現在は日本がトップを走っているが、
アメリカが追いつくのも時間の問題だ。まあ当分の間は日米がロボットの輸出国ということだ
ろう」
 ・・・・・ロボットというとマスプロにつながるが、これまでの科学技術の使い方を反省して、オ
ルターナティブ・テクノロジーといったようなことも提唱されているが。
 「技術の進歩と社会の進歩の間にはおもしろい関係がある。あまり進んでいない社会では馬車
を使う。少し進むと自動車になる。技術的にはその先はヘリコプターになるが、これは道もな
い未開地に使える。
 今後も技術は進歩して、人間の手をほとんど借りずに自動的に修理や維持をするトラクター
とか、万能ロボットというものができるだろう。そうなれば個人の生活はもっと豊かになる。
例えば、ロボット一台(?)を連れて山奥に住んでも快適だ。ロボットが木を伐り小屋を建て
る。ピアノを造っで弾いてくれもする。だからこうした技術は人間的なものだと言えよう」
 両親はロシアからアメリカに渡ったユダヤ人で、小さな電機部品を売る店を持っていたそう
だが、フレドキン教授の愛想の良さは父親譲りなのかもしれない。その上彼の風貌は理科に強
かった筆者の小学校の同級生を彷彿とさせる。「両親も私もあまり宗教には興味がない」とは言
うものの、カリスマ性の持主でもある。その反面、アメリカの金持ちのご趣昧”といわれる慈
善事業にはあまり関心がないそうだ。
 「慈善事業ではないが、創造性の開発を目的として、チェスのワールド・チャンピオンを破る
プログラムを書いた人に賞金を出すことにした(フレドキン・プライズと呼ばれる)。あと10
年くらいは、受賞者が出ないのではないかという意見が多い。そういえば、碁がチェスと比較
されるが、碁を打つプログラムというのもそれほど難しくはないと思っている。もっとも私の
意見に賛成するエキスパートはいないが、すべての場合を尽すという方法ではなく勢力とか、
 『敵の急所はわが急所』といったことをプログラムに変えることによって、チャンピオン・ク
ラスの碁のプログラムを書くことはチェスのプログラムを書くより容易なのではないか」
 碁だけではなく、日本料理も好きだというフレドキン教授が日本を訪問したのは二年前。「近
いうちにまた是非訪ねてみたい国」だという理由の一つは、驚異的な勢いで進んでいる日本の
技術についての好奇心からでもあるらしい。
 ・・・・・最後に、「使えないアイデアを一番多く考える」という評価について。
 「それは誉め言葉だと受けとっている。ほかの人はある程度考えを煮つめてから口に出すが、
自分は考えつくとどんどん人に話す。駄目なアイデアも多いが、良いアイデアも多いと思って
いる」

広島ブログ
秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
より多くの市民に読んでいただくためにクリックをお願いします。