秋葉忠利著書 “顔”を持ったコンピューター 第5章

 いまから25年前、当時一流のコンピューター科学者10人に秋葉忠利がインタビューしてコンピュータの未来と人間の将来について書き上げたものです。今日は第5章、コンピューター付空飛ぶ“ノア”、エドワード・フレドキンへのインタビューです。

   コンピュータ付空飛ぶ″ノア″
MIT教授・ THREE RIVERS COMPUTER CORPORATION 社長 
   エドワード・フレドキン
   Edwerd Fredkin


     インタビューを終えて    
 (1)
 コンピュータとは直接関係のない、未未社会についての話が大部分になってしまった。その
話の中には「細部も検討ずみだ」という言葉が何回もでてきた。何らかのモデルを作りコンピ
ュータ・プログラムを書いて計算を行ったという意味だけではなく、それがどんな結果になろ
うと話の大筋に影響がないという意味もあるようだ。
 そしてこのプログラムカと、涸れることを知らないアイデアの泉がフレドキン教授のトレー
ド・マークのようである。前評判ほど奇人変人という印象は受けなかったが、とにかく型破り
の人であることには間違いない。
 アイデアの中でも[計算の物理学]など、実りの多い分野になることが期待できそうだし、
一本足のロボットも親しみが持てる。こうぃうアイデアは、やはり大所高所からでないと見つ
けられないかもしれない。しかも、それが高度の技術に支えられている。となると、飛行機が
趣味ということも偶然以上の何かを感じさせる。
 「核戦争後の世界」とか「犯罪防止」については改めて論ずるまでもないだろうが、地上をう
ろうろしている凡人の感覚では、次代を担う世代に再び戦争の経験をさせたくないという思い
が先になるのではあるまいか。飛行機に乗っていれば、地に足の着いていないのは当たり前と
軽口の一つも叩きたくなる。人間は他人の経験から学ぶことはできないのかとも思う。だが同
時に、大洪水の後を託されたノアのように、方舟ならぬ水陸両用機を駆って、核戦争後の世界
を考えることも必要なのかもしれない。
  (2)
 フレドキン教授のハ面六背の活躍は相変わらず続いている。昨年は男の子が生まれたことに
加えて1982年夏からはボストンのローカル・テレビ会社WNET・TVの会長としての重
責も果たしている。これまで第7チャンネルの権利を持っていたWNACがその免許更改時に、
フレドキン氏を中心とする、ボストンのビジネス界からチャレンジを受け、結局、フレドキン
派の勝利に終わったということである。メディア・ミックス、あるいはテレビも含めた通信
(Communication)と計算(Computation)の合同といった傾向から見るとごく自然な成り行
きである。その効果はすでに7チャンネルのプログラムに反映されている。新たにWNETに
なってから、コンピュータ・グラフィックスを応用した画面構成がとても多くなったからであ
る。
 スリー・リバーズ・コンピュータ会社も健在だが、MITの研究室に顔を出す時間はずい分
減ったようだ。大方のコンピュータ科学者が大学内にのみ閉じこもっていた時代に企業家とし
て成功するなど、いわば、次の時代の趨勢を自らの行動で示してきたフレドキン教授である。
これからの世界を他人に先がけて知るためには Visionary と呼ばれる彼の一挙手一投足に注
目するのが一番の近道かもしれない。
 ・・・・・こう書いたインクの乾く間もなく、1983年4月18日付の新聞の報道によると、フ
レドキン教授がインタビューで予想したトランスポンダーによる犯罪管理が現実のものになっ
た。ニューメキシコ州のアルバーカーキー市で、仮釈放中の男の足首にタバコの箱くらいのト
ランスポンダーを付け、彼の行動をモニターすることになったという。その名も「電子手錠
(エレクトロニクス・ハンドカフ)」である。

広島ブログ
秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
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