秋葉忠利著書 “顔”を持ったコンピューター 第6章

いまから25年前、当時一流のコンピューター科学者10人に秋葉忠利がインタビューしてコンピュータの未来と人間の将来について書き上げたものです。今日は第6章、アラン・パリースへのインタビューです。
   コンピュータ科学界の長老/異端者
  エール(YALE)大学教授アラン・パリース


        APLとLISP    
手厳しいADA批判だが、簡潔さと速さを兼ね備える新言語を創ることを最優先事項にすベ
きなのだろうか。
「新しい言語を作り出す必要はない。簡潔さという点ではAPLがあり、速さという点ではL
ISPがある。これをうまく組み合わせれば良いものができるのではないだろうか。例えば、
APLとPASCALとを比べると、APLの方が大体三倍簡単になってくる。書く時間は3
分の1ですむ。努力も3分の1等々ということだ。PASCALを使うと山ほどもあった問題
が、APLを使うと塵ほどになると形容してもよい。
 PL/Iとの比較もしてみた。それにはメリーランド犬学のガーナ教授の行った実験を使っ
た。冒頭の3記号が数字で、あとは勝手な記号を並べた記号列をインプットする。学生に出し
たプログラムの問題は、こうした記号列が与えられた時、まず三つの数字を逆に並べて、ある
数を得る。残りの記号をこれまた逆に並べたものをこの数だけプリントするプログラムを書け、
というものである。つまり“175 ABC”という記号列が与えられた時に“CBA”を571回
プリントするようなプロダラムを書くという問題である。
 さて、PL/Iを使った実験では、プログラムの平均の長さは55行、誤りの平均は12〜15
で、正しいプログラムを得るまでに10〜12回の実行が必要だった。PL/Iの一部分だ
けを使って同じプログラムを書かせた実験では、もっと能率が落ちている。これと同じ問題を、
エール大学でAPLの初心者クラスに与えたところ、85人の学生がすべて1行からなるプロ
グラムを書いた。使った記号の数は35から40、誤りの一番多かった人で三つ。実行回数は
たかだか2回で済んでいる。ここにあげたプログラムを書くのに必要な機能は、APLにおい
ては定義不必要になっているからだ。
 目の前にあるCRTの画面に映っている1行を理解するのはそれほど難しくはないが、50
行ともなると画面を二度三度と変えなくてはならない。このプログラムの全体像を把握するこ
とも容易ではなくなる。LISPはといえば、これは純粋な情報処理言語である。小人数で作
った大規模なソフトウエア・システムはほとんどLISPで書かれている。
 では、どのようにAPLとLISPを組み合わせるかということになるのだが、これがまた
難しい。この二つの言葉を使うにはまったく違った発想法が必要になるからだ。今のところ、
APLのプリミティブ・ファンクションとデータ構造をLISPの中に埋め込むという方針で
進んでいる。その逆ではうまくいかない」
 簡潔かつ使いやすい組み合わせが早くできてほしいものだが、何年先といった具体的な話に
なるまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。その上、仮にすべてがうまく運んでも、この言語
が全世界を席巻するかどうかまで保証できないそうである。



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秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
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