秋葉忠利著書 “顔”を持ったコンピューター 第6章

いまから25年前、当時一流のコンピューター科学者10人に秋葉忠利がインタビューしてコンピュータの未来と人間の将来について書き上げたものです。今日は第6章、アラン・パリースへのインタビューです。
   コンピュータ科学界の長老/異端者
  エール(YALE)大学教授アラン・パリース


     言語の普及は ″ 社会的 ″ 間題

 「あるプログラム言語が役に立つとか、重要である、あるいは広範に使われているといった状態
になるまでには多様な投資が必要だからだ。教科書、機械、システムの記述、先生など、ある
意味でこの言語を支える小さな共同体ができ円滑に動かなくてはならない。PASCALの場
合には、そうした背景があった。もう一つは大きさの問題だ。PASCALでは、どのコンピ
ュータをとっても1,2人でインプリメンテーションができた。これはPASCALが適正な
大きさの言語だからだ。自然界で生存競争に勝つには、この大きさが大切だが、APLの場合
適正サイズだとは言えない。
 言語が広く使われるためにはこのような要素の方が、その言語の完成度よりはるかに比重を
持つという点を強調しておきたい。歴史的にも、ALGOL式の言語が使われてきたのは、偶
然の積み重ねだと考えられる。小さな変化が次々に起きて、″ 進化 ″ してきたというわけだ。
 FORTRAN、ALGOL、PASCALもこの流れの中で見直すことができる。これを
説明するのにDEC社をいつも持ち出すのだが、DECの市場作戦は、まず性能を上げておい
て、次にサイズを小さくしていくというものだ。それと同様にALGOL60は、FORTRA
Nに比べて数段良くなった。それを次にPASCALと小型化した。ALGOL68は、ALG
OL60に比べて著しく改良された。それを今度はADAでコンパクト化している。だが、これ
らすべてを同一物とみることもできる。ちょうど、ゼネラル・モータース社の車と同じように、
一見種類が多いようにみえても、基本的には同じ物ということだ」
 もっともGM社製の車より日本製の車の方が人気があるのは、消費者の側から考えると安い
し、使いよいということであろう。プログラム用言語の使い勝手はどうなのか。アメリカのあ
る企業で、プログラムについて何も知らない秘書たちにBASIC、APLなどやさしい言語
を教えたところ、APLが一番人気があったという。
 「それは、人間とシステム間のインタフェースが、APLではとてもスムースになっているか
らだ。 一例をあげれば、ワーク・スペースという区画が決められていて、仕事を中断しても前
とまったく同じ状態のスペースに戻ってきて仕事を続行できる。だが、APLが広まるにはハ
ードウエアが一番の問題点である。APLを使うと安くてよいハードウエアができれば、ずい
分違うだろう。それと、IBM、STSC、I・P・SHARPの三社がAPLを独占してい
る状態も問題である。特に最近のIBMは、60年代中頃の仕事の惰性で動いているようだ」

広島ブログ
秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
より多くの市民に読んでいただくためにクリックをお願いします。