秋葉忠利著書 “顔”を持ったコンピューター 第7章

いまから25年前、当時一流のコンピューター科学者10人に秋葉忠利がインタビューしてコンピュータの未来と人間の将来について書き上げたものです。今日は第7章、ロジャー・シャンクへのインタビュー、昨日の「シャンク教授の横顔」の続きです。

          人工知能に賭けるエールのボス
    エール(YALE)大学教授  ロジャー・シャンク Roger C. Schank


シャンク教授の横顔 2  


・・・・・これまでどんなことに興昧を持って研究を進めてきたのか、ざっとふり返ってみてほし
い。
「まず、私は言葉に一番興味を持っている。大学院で言語学を専門にしたのも、コンピュータ
そのものより言語の方に関心があったからだ。コンピュータに言葉を解らせるための鍵は言語
学にある、という幻想に取りつかれていたせいもある。言語学者なら言語について知っている
と思ったのだが、すぐにそれが誤りだと気がついた。やはりAI(入工知能)でなくては、と
いうわけで68年からスタンフォード犬学のAI研究所に移った」
テキサス大学に行ったもう一つの理由は、当時そこが機械翻訳の研究では一番規模の大きい
研究をしていたからだが、そのうちに機械翻訳の研究資金が削られてしまった。研究費が膨大
で、人間に翻訳をさせた方が安上りなこと、それに、当時は構文法にばかりにとらわれて、目
ざましい研究成果があがらなかったというのがその理由だ」
 「スタンフォードでは、初めコルビーと一緒に披害妄想のモデルを作るといった仕事をしたが、
精神分析学にもあまりひかれずコルビーと共同研究をすることもなかった。その結果、博士論
文の主題に戻って、言語に依存しないモデルをより一般的な問題に応用する研究をすることに
なった。例えば、英語から日本語へ何かを翻訳しようとする時、直接に言葉から言葉への置き
換えをするのではなく、まず英語で表現されている事がらを言語に依存しない形で表現し、次
に、その表現が代表している事がらを日本語に言い換える。中間にある言語に依存しない表現
をインター・リンガルと呼んでいるが、実はこの概念は翻訳だけでなく、もっと一般的に言語
の理解という問題に応用できることに気がついた」
「最近は、その一環としてコンピュータに推論させることを研究している。例えば『ジョンは
メリーをたたいた』ということからいろいろ推測することができる。ジョンは怒っていたのか
もしれない。二人が喧嘩をしていたことは、まず間違いがないだろう。メリーはジョンを怒ら
せるようなことを言ったのかもしれない。こうした推測をコンピュータにやらせるためのプロ
グラムを書いた。結局、スタンフォードには5年いて、5人の博士論文を指導した」
 「1973年にはスイスに行き、ルガノ湖畔の『意昧・認識研究所』で、言語の研究を続けた。
それ以前にも漠然とは考えていたのだが、翻訳あるいは言語を理解するのに文章単位で処理を
したのでは駄目だという結論に達して、段落とか文脈を考えに入れて研究を進めた。もう一つ
スイスで気がついたことは、人工知能の研究をする上で、最も重要なのは言語ではなく記憶だ
という点だ。人間は、言葉を使って多種多様の情報を吸収し、それを記憶、組織し、さらに一
般化する。言語はそのインプットとアウトプットという段階では重要だが、頭の中で何が起こ
っているのかを知るためには、どうしても記憶の構造を理解しなくてはならない。こうして、
記憶の研究も始めることになった」
 「74年にはエールに移って、AIの研究所を設立した。現在所員は40人いるが、大学の研
究所では一番新しく小規模だろう。AIの研究費は、主にARPA(国防総省の高等研究計画
局)から出ているが、MIT、スタンフォードカーネギー・メロンの3研究所で独占してし
まっているので、ここはほかのつてを求めて何とかやりくりしている」
「エールの特徴はあくまで言語が中心で、ロボットの研究にはまったく手を出していないこと
だろう。それというのも、私自身AIといえば認識心理学とほぼ同一のものだと考えているか
らだ。すなわちそれは、人間がどのようにものごとを理解するのか研究する学問である。その
中でも、われわれは主に次の二つの分野に関心を持っている。一つは、人間の脳の働きを理解
することであり、もう一つは、それをコンピュータ・プログラムとして実現することだ。これ
までの研究で、コンピュータも新聞を読める程度にはなっているが、今後は人間の持つ計画性、
目的、動機などをも考えに入れていって、小説まで読めるようにしたい。物語が読めるように
なるためには、先が見えることが必要になる。レストランで食事を注文すれば、当然それを食
べることが期待される。それに反する事実が現われない限り、われわれは、注文したものは食
べたという仮定を暗黙のうちにして先に進む。これをコンピュータ・プログラムの中に取り入
れつつある」


広島ブログ
秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
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