秋葉忠利著書 “顔”を持ったコンピューター 第8章

いまから25年前、当時一流のコンピューター科学者10人に秋葉忠利がインタビューしてコンピュータの未来と人間の将来について書き上げたものです。今日は第8章、マービン・デニコフへのインタビュー、海軍研究所(ONR)についての続きです。

        コンピュータ科学の演出家

米国海軍研究所情報科学部長 マービン・デニコフ Marvin Denicoff


      ONR(2)

 ONRがコンピュータ科学界においてかなりの影響力を行使できるという証明にもなっているが、前の説明ではその影響力を〃一方的〃に使う権限も与えられているようである。だが、権利と義務は裏腹のものでもある。その義務を遂行するためには、さらに単なる金主としてだけではなく、コンピュータ科学界で研究方向を決定する指導的役割を果たすためには、弛まざる研鑽が必要なはずである。
 「最新の知識を得るためには、すべての分野にわたってセミナーや会議が重要な役割を果たす。その分野での研究者の教育に役立つだけではなく、私自身それに私のスタッフにとってこれ以上の勉強はない。これから盛んになりそうな分野では、特に大切なことだ。例えば、オフイス・オートメーション(OA)についての研究が始まりつつある段階なら、OAについてのパイオニアを何人か探す。これも日頃からONRが、コンピュータ科学界の一部になっていることが強味になって容易に知ることができる。次にその人たちを中心にしたセミナーを開いて、この分野の将来についての評価を行う。機が熟していると思えば、積極的に研究補助をすることに
なるが、実質的な成果があがるほど成熟していない場合には、この分野がどのように発展するかという調査なり研究なりをしてもらう。いわばこの″分野〃の定義づけをし、具体的にはどんな研究成果が期待できるものなのか、そのためにはどの程度の補助が必要か、リーダーは誰で新人は誰か等々、一年ほどかけてこうした情報を得る。それをもとに、ONRの方針を決めていくことになる。
 こうした〃探索的〃な研究のはかに、既存の分野についての概括評価といった研究をしてもらうこともある。隣接分野の専門家に依頼する場合が多いが、ある分野で期待どおりの成果があがったか、主な業績はどんなものか、この分野が今後も発展していくだけの確固たる基礎はできているか、これ以上投資してもその見返りは限界に達しているのではないかなどを調べてもらう。もちろん、私自身も意見は持っているが、他人の意見を聞くことも重要だ。公平を期するために、批判された側にも反駁のチャンスを与えている。偏った判断をくださないようあらゆる努力をしている。しかし、最終的には何らかの結論に達する必要がある。そうした評価・決定をすることもわれわれの仕事の一部である。そのためには、セミナーも役に立つが、社交的な要素が強いし、ロから出まかせの意見が罷りとおることも多い。その点、少人数で一年かけて書いた報告の方が価値が高いとも言える。
 もう一つ付け加えると、米国での成果だけではなく、日本やヨーロッパでの成果にも常に目を光らせている。セミナーには一日本人も招待するし、日本での会議にこちらから人を送ることもある」
 そろそろ本論に入って、ONRの援助している研究はどんなものか、今後のコンピュータ科学の動向はどうなるのかなど、二、三の部門について聞いてみた。


広島ブログ
秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
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