秋葉忠利著書 “顔”を持ったコンピューター 第8章

いまから25年前、当時一流のコンピューター科学者10人に秋葉忠利がインタビューしてコンピュータの未来と人間の将来について書き上げたものです。今日は第8章、AI(人工知能)です。

            コンピュータ科学の演出家
  米国海軍研究所情報科学部長 マービン・デニコフ Marvin Denicoff


      AI(人工知能
 「AI(人工知能)の研究は、ARPAと三軍が協力して援助している。金はARPAが出し、
ONRは人選とか主題の選択のモニターを手伝っている。AIの分野を大きく二つに分けて、
一つはAIと意思決定、もう一つはロボットと考えることもできるが、その各々でどんな研究
が進行中か、将来はどうなるかざっと説明しよう」
「第一の領域に入るものでは、まず知識の形式化という研究がある。世の中の人、場所、事件、
あるいはそれらの関係を何らかの形に表現してコンピュータに憶えさせ、新しいデータが入っ
てきたときにそのデータの背景、文脈といったものがすぐ分かるようにするのが目的だ。これ
に視覚とか声などを加えるのが次の段階である。
 それから常識による判断。人間と同様に思考ができるほど〃利口〃なコンピュータを作り、
自動意思決定に使うのが目的だが、実現はずい分先になりそうだ。自然言語の理解、外国語の
翻訳の研究も進んではいるが、成功しているのは、話題を限って名詞と動詞だけに重点を置い
たものだ。比較とか、同意語、比喩、心理的ニュアンス、丁寧さ、誇張、嘘など人間同士の話
では本質的になる部分をすべて捨象した文章だけしか理解できない。だがこれでもずい分有益
だ。ビジネスとか軍事の世界では、微妙さとまったく関係のない面もあるからだ。その先は、
意識下にまで入って一人の人間のモデルを作ることになるだろう。
 ところで、こうした研究で直接軍事的に使えるものもあり、あるいは間接に利用できるもの
もある。例えば、エール大のシャンク教授(第七章で紹介)の研究の軍事的応用も考えられる。
ただしONRでは、〃秘密研究〃の補助はしていない。研究の結果はすべて公開される。
 そのほかにも話し言葉の理解、単語の拾い出し、知識ベースを持つシステムなどの研究もあ
るが、大切なのはあるシステムの全体像をつかむことだろう。例えば、未来の修理屋さんは小
型のターミナル、CRTなどを持ち歩き、知識べースと対話しながら故障を直す。しかも〃対
話″の中には、映画、漫画、普通の会話、文章、青写真といったものまであって、どんな方法
を選んでもよい。さらに、その修理に必要な部品についてはシステムの方で知っていて、ロボ
ットが倉庫から取り出して現場まで送ってくる。そこまで考えなくては本物ではない。ロボッ
トについては、AIについて今まで見てきたことのほかに視覚、センサー、操作手などが同時
に機能する必要があり、それだけ難しくなる。
 だが、今後の方向は今日ある特殊目的用のロボットからプログラム可能なロボットヘ、そし
て人間が予期しないようなことまでリアルタイムで処理できるロボットの研究へ移行すると思
う。工業用ロボットだけでなく、これにOA面の進歩を加昧することも大切だろうし、ロボッ
トの手を3〜4本にするとか、指の数を変える、あるいは何体ものロボットを同時にコントロ
ールするといった面での研究も進むだろう。
 こうなってくると、日本的な美のセンスがものを言うのかもしれない。日本に大いに期待す
る。それに関連して、これまでのコンピュータで一番不満に思うのは、作家、画家、音楽家
いった創造的な仕事をしている人たちには何の恩恵ももたらしていないことだ。こうした方面
の研究にも目が向けられるべきだろう。


広島ブログ
秋葉市長が25年も前にコンピュータ時代を予測して、当時の最先端科学者をインタビューした本です
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