アメリカ人とのつきあい方 プロローグ

    アメリカの本音
 エルムウッド・パークでの一年間の高校生活から8年たった1968年、こんどは大学
院生として、東海岸のボストンに留学しました。それ以来、1986年の夏に日本へ
戻ってくるまでの20年近い歳月を、私はアメリカで暮すことになりました。
1970年にマサチューセッツ工科大学の大学院を卒業して以来、大学で数学を
教えてきました。その間、アメリカ人の女性ベティーと結婚して、ジミーといういま
13歳(中学二年)の男の子がいます(現在は離婚して、ベティーとジミーはボス
トン郊外に住んでいます)。最初のアメリカ生活は中西部でしたが、その後はほとんど東
海岸のボストン近くで生活しました。こうした経験をもとに、この本では、シカゴ近郊の
典型的な中西部の町とともに、ボストン近郊のアーリントン、あるいはサマービルといっ
た町から見たアメリカの姿をみなさんにお伝えしたいと思います。
 ところで、私が最初高校生活を送ったシカゴ近郊とその後暮したボストンの町とのあい
だには、とでも大きな「距雛」があります。まず、時差でいえば一時間。シカゴからボス
トンまで行くのには、車で約一昼夜、飛行機でも2時間ぐらいかかります。もっと大きい
のは文化的’社会的な距離かもしれません。同じ英語をしゃべって生活していても、シカ
ゴの人たちとボストンの人たちはちがったアクセントで話しますし、考え方もずいぶんち
がいます。たとえば、ボストンとシカゴの産業がちがっていて、利害関係が対立するよう
なこともあるからです。どこの国からどういう人たちかいつごろ移住してきたのか、現在
の経済状態がどんなふうなのか等によっても住民の考え方はすいぶんちがいます。統計的
にはシカゴの人ロは300万。アメリカで2番目に人ロの多い都市で中西部の中心地です。
工業も盛んですが、農業地帯の中心地でもあります。ボストンは人ロ60万。エレクトロ
ニクスやハイテク産業が盛んですが、大学が多く、学術都市としても有名です。また歴史
の古い町でもあります。
 ですから、アメリカを説明するにあたって、「これかアメリカだ」と一ロで説明するこ
とはとてもむずかしいのですが、それでも、大まかに考えると、アメリカという一つの国
の性格をあらわしている事柄があるような気がします。この本のなかでは、日本とくらべ
てみて、「これがアメリカだ」と私が感じた点もいくつかあげてみたいと思います。
 もう一つの問題は時間的な変化です。1959−60年に私がはじめてアメリカに渡っ
たときのアメリカ人の考え方と、それから約30年近くたった現在のアメリカ人の考え方、
行勣の仕方はずいぶんちがってきています。その間、私のものの見方や考え方も変化して
います。そうした変化がなぜ起ったのかを理解しないと、アメリカのほんとうの姿がわか
ったことにはならないような気もします。しかし、そこまで説明するスペースがありません。
 結局、本書では、アメリカがこの30年間どのように変ってきているのか、変ってきて
はいるけれども、一貫して流れているアメリカ精神とはなにかといった点を中心に、私流
の説明をしたいと思います。また、アメリカの若い世代が大人になっていく過程で意識的
に身につけるアメリカ的な価値観、さらに、アメリカ人が無意識のうちに信じている大前
提、つまりアメリカの本音とでもいったものも、みなさんにお伝えすることができればと
思います。その結果、アメリカおよびアメリカ人とどのようにつきあえばよいのかが、自
然にわかっていただけるのではないかと思います。


広島ブログ