アメリカ人とのつきあい方  1 サマーズ家の日々

       一日の始まり

 サマーズ家での典型的な一日は、ラジオのコマーシャルからはじまりました。
ティーブが、そのころの日本ではまだ珍しかったクロック・ラジオを持っていて、
朝の6時45分になると、コマーシャルにつづいて、WBZ局のニュースと
天気予報が自動的に流れてきました。
 スティーブと私は、2階全部が一部屋になっている20畳ほどのスペースでいっしょに
生活したのですか、東側にベッドのあるスティーブのほうがトイレとバスルームに近いの
で、彼がまずシャワーに入ります。
 スティーブがシャワーを終えてバスルームから出てくるころに、私はベッドから抜け出
すのがふつうでした。「グッド・モーニング、スティーブ」「グッド・モーニング、タッド」
とあいさっしなからベッドを整え、彼は階下へ、私は身仕度のためにバスルームにという
ぐあいでした(サマーズ家では、TADATOSHIの最初の三文字をとって、私は「タッド」
という愛称で呼ばれていました)。
 日本なら、ふとんをたたんで押入れにしまうことに相当するのでしょうか、毎朝ベッド
を整えなくてはなりません。最初のうちは苦労しましたが、スティープといっし。に毎朝
同じことをくり返すうちに、考えないでも身体が動くようになりました。眠くても急いで
いてもベッド・メーキングをサボることは許されませんでした。
私がバスルームに入るのはいつも、ラジオでエル・アンド・エムというタバコのコマーシャル
がはじまるころでした。いまでもシャワーに入るたび、“ L&M has the secret that
unlocks the flavor. ”(エル・アンド・エムには香を解き放つ秘密がある」)という
コマーシャルの言葉とそのメロディーを思い出します。
 階下では、台所でマムが朝食の準備をしています。ダッドは愛犬のトラブルを連れて行
きつけのドラッグストアで新聞を買ってきて、居間で読んでいます。身仕度を整えて階下
に下りていくと「グッド・モーニング」の後にダッドはいつも「昨夜はよく眠れたか」
と聞きました。そのころは、聞かれたことに返事をするだけでしたが、最近ではわが家を
訪れるお客さんに、朝、同じような言葉をかけている自分に気づきます。習慣というもの
はこうして出来あかっていくものなのでしょう。



広島ブログ