アメリカ人とのつきあい方 1サマーズ家の日々

  消灯時間 

 食後は、自分の部屋に戻って勉強をすることがふっうでした。授業も宿題も全部英語な
ので時間がかかりました。けれども、夜11時になると、かならずダッドが寝る時間になった
ことを告げに2階に上がってきたものでした。
「そんなに勉強ばかりしていると、目つきが悪くなって女の子にもてなくなるぞ」とか、
フランキー・アバロンの歌がはやっていて、私がレコードを買ったばかりのころには、
「フランキー・アバロンの歌なんか好きなやつにはロクな人間はいないネ。女の子にふら
れるぐらいでメソメソして」という調子で私たちをからかい、スティーブと私が歯をみか
いてベッドに入ると、毛布の上から二人のおしりをポンポンと叩いたうえ、「スリープ・
タイト」(よく眠れよ)といって灯りを消し階下に下りて行くのが日課でした。マムは足が
わるいので2階までは上がってきませんでしたが、階段の下で「グッド・ナイト。ハブ・
ア・ナイス・ドゥリーム」と声をかけてくれました。
 でも、11時に寝なくてはならない日課には困りました。たとえば、アメリカ史の授業
は、生徒が教科書を読んできたことを前提に進められます。1日20ページ読まなくては
ならないこともありました。授業のはじめにクイズと呼ばれる小テストがあって、ほんと
うに教科書を読んだかどうかがチェックされることもしばしばでした。英語を読む速度は
遅いうえ、教科書の内容も日本で勉強するのとはずいぶんちがっています。かりに速く読
めたにしろ、アメリカ史の教科書に出てくる固有名詞はそれまでに聞いたこともないよう
な名前がほとんどでした。そういう人名や地名を覚えておかないと試験問題さえ理解でき
ません。教科書を読み理解し名前を覚えるには、どうしてもアメリカ人より時間がかかり
ます。だからアメリカ人より少し長めに夜遅くまで勉強したかったのです。
 でも、ダッドは11時になると「もう遅いから寝ろ」といいます。宿題を終えずに寝てし
まえば、つぎの目の授業にさしつかえます。日本では宿題をせずに学校に行った経験が
ほとんどなかったので抵抗感もありました。日本の親は一般的に、子どもが勉強のために
夜中の1時ぐらいまで起きていても文句は言わない、とダッドに説明しました。でも、私の
言い分は認めてもらえませんでした。結局、11時になると宿題はできていなくてもその
まま寝る、つぎの日には先生に怒られる、それでもともかくいっしょに住んでいるサマーズ
家の人の言うことは聞く、それ以外の選択は許されないことがわかったので、11時に勉強を
やめることにしました。
 2,3ヵ月たつと宿題を片づけるスピードは速くなり、要領もよくなってきて、それほど問題
はなくなりましたが、ともかく寝る時間は親がきちんと決める事柄なのだという点だけは頭
に入りました。

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