アメリカ人とのつきあい方 1サマーズ家の日々

  親の権威

 このように、アメリカの家庭では両親が規則を決めて、子どもはそれをきちんと守る
という姿勢が最近でも残っています。ときにはそれが、権威主義的な押しつけのように
映ります。対して日本の家庭では、親が子どもにたいして、なぜそういう規則が必要か
といった理由を説明する姿勢があるように私には思えます。どちらかといえば、子どもの
考え方を尊重するといってもよいように思います。
 日米間の差に気づいたのは、つぎのような親子のやりとりを何度も見たからかもしれ
ません。息子のジミーが保育園に通っていたころのことです。ジミーの友だちにマイクと
いう男の子がいました。ある日、お父さんがマイクを保育園に迎えにきたときに、マイク
はぐずぐずしていてなかなか帰ろうとしません。何度かやりとりがあった末、お父さんは
「言うことを聞かなくちゃだめだよ」といい、それでもマイクは「どうして?」とロ答えを
しました。それにたいしてのお父さんの最後通ちょうが“Becaouse l’m bjgger than you
are.” でした。つまり、自分のほうが大きくて、ここでけんかをすればおまえは負けるの
だから、親の言うことに従え、強い者の言うことを聞け、あるいは長いものには巻かれろ
というものでした。このように力を誇示して親の言うことをきかせる傾向がアメリカの親
にはあるようです。
 それはまた、親が決めた規則を子どもが守らないとき、かならずといってよいほど罰則
があることにも示されています。その典型的な例としてグラウンディングという制度があり
ます。デートで、あるいはそのほかの用事などで高校生が夜間外出をする場合、とうぜん
帰宅の門限があります。日本よりも遅い門限が多いはずですが、親子の話合いで門限の
決るケースも多く、最終的には、親が十時とか、十一時というふうに決めて、その時間まで
に帰ってきなさいと命じます。もしその時間までに帰らないと、たとえぱ一週間外出禁止
とか、1ヵ月間外出禁止といった罰が親から課せられます。これをグラウンディングといい
ます。子どもが家の外に出ることを「飛ぶ」というイメージでとらえると、グラウンドというのは
「地面に下ろす」という意味ですから、「家庭に閉じこめる」「外出禁止」ということになります。
 最近では帰宅の門限もかなり遅くなっているようですし、その他の規則も以前よりは緩
やかになってきてはいますが、グラウンディングという形の、あるいはお小遺いの減額や
中止の形をした親の権威はまだ残っています。ただ、体罰はあまり歓迎されません。子ど
もたちを身体的に傷つけたり、虐待したりする親がいることは、社会問題としてマスコミ
などで大きく取りあげられています。しかし、ふつうの家庭では体罰はほとんどみられな
いと考えてよいようです(もっとも、アメリカの子ども4人に1人は身体的な虐待を受け
ている、という調査もあることにはあるのですが)。門限が遅くなったり、規則が緩やか
になっているのは、社会や家庭のあり方が大きく変っているからです。親が子どもを自分
の思うとおりに育てられなくなり、自分の意志を子どもに強制できなくなってきているの
です。

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