秋葉忠利著書 ハイスクールの1日

             アメリカ人とのつきあい方

           2章 エルムウッド・パーク・ハイ・スクール

                  ハイスクールの1日
 
 はじめてEPHSに登校したのは9月8日のことでした。学校はすでに前日からはじ
まっていたので、私は入学式、そして始業式には出席できませんでした。とはいっても、
アメリカの学校では日本のように仰々しい入学式はせずに、ふつうのホームルームや、
学校集会をちょっと大きくした程度の入学式です。
 秋から冬にかけての学校の往復はスクール・バスのほうが暖かく楽だったのですが、翌
春、ふたたび気侯がよくなると、徒歩通学する級友の多いことに気づきました。25セン
トのバス代を節約して他の目的に使うためです。私も5月ごろからすぐ裏に住むジョン・
スミスといっしょに毎日20分歩いて学校に通いました。
 クラスメートのなかにジョンという名前の持主はなん人もいたのですが「大笑いのジョ
ン」といえば、ノッポで声の大きいジョン・スミスのことでした。バイオリン・ケースを下げて
歩く姿が印象的でしたが、そのころから演劇とスピーチが好きで、いまはニュー・ヨーク
州の大学でスピーチの先生をしています。
 通学の途中で彼から、先生や級友のゴシップや隠されたエピソードをたくさん仕入れま
した。その他、英語の言い回し、小説や詩のなかの気のきいた文句などもたくさん教えて
もらいました。
 学校での一日は、朝のホームルームの時間から始まります。そしてクラス全員で国旗に
忠誠を誓います(神への祈りを捧げるクラスもありますが、最近、信教の自由という観点
から学校でキリスト教の神に祈りを強制するのは憲法違反だという考え方が強くなってい
ます。国旗に忠誠を誓うことを強制するのも、誓いの言葉の中に「神」が入っているので、
憲法違反だという判決もあります)。「私はアメリカ合州国の国旗と、その国旗が代表する
共和国に忠誠を誓う。神の下に統一され、決して、分離されることがなく、そして自由と
正義がすべての人に保証される国である」という誓いの言葉ですが、同級生にまじってこ
の言葉を聞いたとき、日本とのちがいの大きさにとまどいを感じ、同時に、みんなの真剣
さに圧倒されました。
 つづいて、ホームルームの担任の先生がその日の伝達事項を言い渡します。同じホーム
ルームに属していても、顔を会わせるのは朝の15分程度で、その後は自分の時間割に従
ってそれぞれちがった教室に移動して授業を受けるので、日本のホームルームとはまった
く感じがちがいます。
 その後、6時間授業があるのですが、最初の日はニ時間くらいかけて、勉強する課目の
選択と時間割づくりをしました。そのアドバイスをしてくれたのが心理学の博士号をもつドク
ター・グロースンです。他の先生はみんな「ミスター」や「ミス」「ミセス」で呼ぶのに、博士号を
もっている先生には敬意を払うため「ドクター・ナニナニ」と呼ぶ習慣なのだと教わりました。
 ドクター・グロースンは、アメリカ人にしてはそれほど背が高くなく、柔和な顔つきの40代の
先生でした。サマーズ家の3軒ほど向うに住んでいることを、あとで知りましたが、彼の家を
訪ねたのは1年の間に1度、タ食に招待されたときだけでした。しかし、カウンセリングの
時間にはとても親切でどんなアドバイスでもきちんと理由を鋭明してくれました。       
 ホームルームの担任の先生の役割は、伝達事項を読むくらいなので、日本の受け持
先生の役割を果たすのがドクター・グロースンでした。
 つぎの学期に勉強する課自の選択についてのアドバイスの他、さらに大学進学に際して
大学の選択や進学手続、また就職の相談にも乗ってくれます。日常的には勉強のこと、
ボーイ・フレンド、ガール・フレンドなど異性の友人について、家族の問題等と生活全般に
わたってこまごまと話を聞いてくれます。
 なにも問題がなくてもカウンセラーのほうでは受持の生徒たちを定期的に呼び出します。
授業を受けている最中、1学期に1度か2度カウンセラーからの呼び出し用のピンクのメ
モをもった係の人が教室にやってきます。時間を見て、授業の最中だったら教科書はその
ままにして教室を出ますが、終り近くだったら道具を全部片づけてカウンセラーのところに
行きます。カウンセリングは、授業よりも重視されることになっています。


広島ブログ