秋葉忠利著書  時の座標 

             アメリカ人とのつきあい方

           3章 アメリカの年中行事

                     時の座標 
  
アメリカ人はよく「あの年のクリスマスには何をしていたのだろう」とか、「今年はサンクスギビングから
クリスマスまでがとても短かかった」といった表現を使います。祝日や年中行事が骨休めや充電の
ためだけでなく、時の流れの座標軸にもなっているからです。アメリカ人の生活を理解するためには、
年中行事の歴史や意味を知る必要があるということです。
 アメリカでは週休二日制が定着していますから、学校もオフィスもふっうは、土曜と日曜の二日、
休みます。日曜が休みなのは、法律でほとんどの商業活動や労働を禁止している州が多いから
です。もともと青い紙に印刷された法律であったため、この法律は、ブルー・ローと呼ばれます。たと
えば、お店も小さなドラッグストアとかコンビニエンス・ストア、新聞のスタンドなど、必要最小限の
ものを売っている店しか開店を許されません。
 ブルー・ローの背景には日曜日を安息日とするキリスト教のきまりがあるのですが、最近では宗
教の影響力が弱まってきたこともあって、マサチューセッツ州などでは日曜の午後には店を開けて
もよいことになりました。しかし、こうした変化が起きつつあるのは、世の中が忙しくなって、土曜や
日曜にも仕事をしなくてはならない人が多くなったからです。ライフ・スタイルも変り、宗教にたいす
る気持まで影響を受けているのです。数年前、IBMに勤めながら大学で勉強を続けていた人が、
卒業論文を書くために日曜日に上司の許可を得てオフィスのコンピュータを使ったところ、ブルー・
ローにふれるというかどで起訴されたことがありました。このようなケースが脚光を浴び、法律と世の
中の動きとに大きなずれのあることが明らかになって、ブルー・ローが改正されたのです。
 高校時代のアメリカ生活でうらやましかったことの一つは、土曜も日曜も学校に行かなくてよいこ
と、そして、しばしば月曜まで休みになることでした。三連休をつくるために月曜を祝日にしたり、土
曜や日曜に祝日が重なると月曜を振りかえ休日にする制度が、すでにあったのです。
 祝日には、エルムウッド・パークで一番にぎやかなサークルと呼ばれる小公園の近くにパレードを
見に行きました。アメリカ人は心からパレードが好きで、パレードのない祝日などほとんどありません
でした。
 しかし、私の記憶のなかで「アメリカ」と「パレード」はもっと古くから結びついていました。第二次世
界大戦後の日本各地では、アメリカの「進駐軍」のジープやトラックが何十台も、昼間からへッド・
ライトを灯して「行進」する姿を毎日のように見かけたからです。それと重なってしまったせいか、エル
ムウッド・パークで見た華やかなパレードの背後には、いつも戦争と軍隊の影が見えました。
 国旗、音楽、寒いのに腕や脚をむき出しにしたバトン・ガールたち、オープン・カーからにこやかに
ほほえむ着飾った若い女性、軍服を着た在郷軍人会のおじさんたちの後ろから銃を持った兵隊が
現れて、チューインガムを投げ始めるような気がしてしまうのです。
それは、サマーズ家の人々といっしょにパレードを見たサークルの一角に飾ってあった旧式の戦車の
せいだったかもしれません。



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