秋葉忠利著書  クリスマス 

              アメリカ人とのつきあい方

            3章 アメリカの年中行事

                     クリスマス



デパートやその他の商店は、サンクスギビングが終るとすぐに、クリスマスの飾りつけをします。クリスマス・ツリーを中心にしたデザインで、色はクリスマスを象徴する赤と緑が中心です。豆電球、ヒイラギ、サンタクロースに雪など、日本の商店街とそれほど差はありません。教会や公園・市役所などには、キリスト生誕時の
シーンを人形で再現した模型が置かれます。小学校ではキリスト生誕劇を子どもたちが演じる学芸会のような催しも開かれます。
 ただし最近では、市役所や公立の学校でこのような宗教的行為を行うのは、アメリカ合州国憲法のなかにある政教分離の原則に、反していると考える人が多くなっています。宗教的にも、クリスマス反対論がありました。事実、十九世紀なかごろまで、アメリカにはクリスマスを祝うことを禁止する法律さえあったのです。十二月二五日にキリストが生誕したことになっていますが、その根拠が聖書のなかにも、その他の文書のなかにも見つからないから、というのがその理由です。
 にもかかわらず、クリスマスは現在のアメリカの一年のなかでいちばん大切なお祭です。
宗教と家庭に根を持っていること、そして、子どもたちの夢をはぐくんできた行事だからでしょう。プレゼントをもらえるせいでもありますが、子どもたちにとって、町中に笑顔が満ち、おたがいの幸福を祈り合う日が待ち遠しいのは自然なことでしょう。
 その待ち遠しさを形に表したものが、アドベント・カレンダーです。十二月一日から窓を一つずつ開けていって、二五になると、キリスト生誕の絵が完成したり、プレゼントが出てきたりします。
 十二月二四日の夜、子どもたちが家々を訪ねてクリスマス・キャロルを歌う習慣も続いています。私も友だちといっしょにクリスマス・キャロルを歌いながらクリスマス・イブのエルムウッド・パークの町を歩きました。一メートルほどの雪の中、懐中電灯の光がとても暖かく見えました。友だちのうちを何軒か訪ねて、最後は教会の地下室で身体を温めました。温かいリンゴ・ジュースやホット・チョコレートなどが準備されていて、とても楽しいクリスマス・イブでした。
 アメリカの家庭では、十二月の十日ごろからクリスマス・ツリーを飾り始めます。なかには、モミの木を森から切ってくる人もいますが、ほとんどの人は店で買うようです。日本の門松市と同じような露店の「ツリー屋」があちこちにできます。多くの家庭では、家中で一晩かかってモミの木に飾りをつけます。飾りのなかには色とりどりのガラスの玉、おじいさん、おばあさんの代から伝わってきたお人形、外国で買ってきた記念の品等、家庭ごとに意味のあるものを選びます。モミの木のてっぺんに大きな星をつけ、雪の代りの銀紙を散らして完成です。親しい人たちのあいだでは、クリスマス・ツリーの飾りをプレゼントすることも多いようです。
 サマーズさんの家のクリスマス・ツリーに私は折り紙で鶴と奴さんを折っておいてきました。それからあと何年もずっとクリスマスのたびに、その鶴を取り出してはクリスマス・ツリーに飾ってくれていました。
 ところで、ユダヤアメリカ人は、クリスマスを祝いません。しかし、ちょうど同じころにハヌカというユダヤ教の祝日があります。クリスマス・カードは、クリスマスを祝うためのものですから、ユダヤアメリカ人、あるいはユダヤアメリカ人の友だちが多い人は《Merry Christmas》の代りに言《Happy Holidays》とか《Havea Wonderful Holiday Season》といったカードを交換します。
 エルムウッド・パークの近くには、通りに面したすべての家が、毎年華やかなクリスマスの飾りをすることで有名な一区画がありました。屋根や窓に電球を飾り、家の前には、それぞれ趣向をこらしたサンタクロースやトナカイ、『くるみ割り人形』に出てくるようなあめや兵隊の人形を置いて、夜になると灯を入れるのです。クリスマスが近くなったある土曜日、サマーズ一家とシカゴまで、クリスマスのためのショッピングに出かけた帰りに、このデコレーションを見に行きました。道が凍りつくほど寒い夜だったので、車をゆっくり走らせて見物している人がほとんどでした。
 クリスマスの日には、サマーズ家の人々と教会に行きました。クリスマスのための飾りつけをした教会で、気心の知れ合った人々とともに希望と愛についての話を聴き祈る雰囲気は、異教徒の私にとっても快いものでした。



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