秋葉忠利著書  自立の歩み

              アメリカ人とのつきあい方

                4章 若者の自立

                     自立の歩み


高校時代一年間のアメリカ生活で淋しかったことは、その間一度もトンボの姿を見なかったことです。その後、大人になってからは、あちこちでトンボを見かけるようになり、アメリカのトンボの種類もわかるようになりました。私がトンボを好きなのは、透き通った羽根の美しさと、自由に空を飛ぶ身の軽さに魅力を感じるからですが、水の中に棲んでいる幼虫(ヤゴ)がある日、地上に出て、脱皮することで成虫になる過程がドラマチックなことも理由の一つです。
 トンボの成長過程について、私たちはこのようなイメージをもっているのですが、私たち自身、つまり人間の成長過程についても、かなりはっきりしたイメージを抱いています。
しかし、そのイメージは文化や社会に大きく影響されます。
 たとえばアメリカ人は一般的に子どもの成長を、つぎのようなイメージで考えているようです−まず、人間は赤ん坊時代、まったく親と社会に依存している。このような、まだ自立していない状態からぬけだして、他人に頼らずに生活できるようになってはじめて、大人になる、つまり一個の独立した人間として認められる−。
 もちろん、大人になるためには、周囲の人々と仲よくつき合えたりいっしょに仕事ができたりといった社会性も必要なのですが、それ以上にアメリカで強調されるのは、他人に依存しない、という点なのです。そして、子どもから大人への変化は急激な形で、十代、つまりティーンエイジャーの間に起ります。
 対して、日本では、なんにも縛られない天衣無縫の子どもが、社会の規則を覚え他人とうまく生活して行けるようになって、はじめて、大人として認められる傾向があるように思います。
 社会全体の傾向をこのように単純な説明で描き尽くすことなど不可能ですが、アメリカ社会が子どもたちの自立をどれほど歓迎しているのか強調するために、あえて比較をしてみました。
 もう一つ、私にとって印象的だったのは、若者の自立過程が、アメリカ社会では日本よりずっとドラマチックなことです。たとえば、日本では、高校から大学に進学しても、あるいは大学を卒業して就職しても、親元から通学・通勤しつづけて、結婚後はじめて親から離れる人が多いように思います。
  アメリカでも最近、経済的な理由から親離れが遅くなっていると言われますが、それでもかなりの数の若者は、親元を離れて遠くの大学に通います。つまり、経済的、精神的には自立していなくても、十八歳ぐらいになると、住む場所だけは親とは別になります。それが、精神的・経済的な自立を促すこともあります。学生時代には普通、親が学資を出しますから、経済的にどのくらい自立しているのかはっきりしないところがあります。それでも、アメリカの大学生(そしてアメリカの中高校生も)のほうが、経済的な自立度は高いような気がします。
 それは、小さいときから自分なりにお金を稼いで、そのお金を自分の責任で管理して使う習慣がついているからだと思います。ときには、日本のお年玉のように、親や親戚からお金をもらうこともあります。塵も積れば山となりますから、子どもがまだ小さいときでも、親が子どもの名義で銀行ロ座を作っておくことが多いようです。
 自分で署名ができるようになると、子どもが自分で当座預金口座を作ることも可能です。小切手にサインをしてお金を払うことになります。利子はつかないのが原則ですが、最近では利子のつく当座預金も増えてきました。自分の当座預金そして小切手帳をもっている高校生はかなりいますし、親が支払い責任者になっているクレジット・カードをもっている人もいます。クレジット・カードの支払いは親に依存するのですが、小切手帳の管理は自分のお金を管理するという意味で自立につながっています。



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