秋葉忠利著書  身近なアルバイト

              アメリカ人とのつきあい方

                4章 若者の自立

                     身近なアルバイト



 しかし、自立のためにより本質的なのは、自分で働いてお金を得ることです。そして、アメリカの子どもたちにとっても、いちばん身近な仕事は、家事の手伝いです。現に、アメリカの小学生のほとんどは家事の手伝いをして親から報酬をもらっています。
 最初は、家の周りの仕事が主ですが、そのうちに近所の家の芝の手入れとか、雪かきをするというように、少しずつアルバイトの範囲は広がります。家の手伝いと一人前のアルバイトの間に、アルバイトの見習いのような期間が入ることもあります。わか家では、芝の手入れは私の仕事でしたので、息子のジミーが手伝いをしてくれるたびに、お金を払いました。私が日本に来てからは、近くの大学生に芝の手入れを頼んでいますか、ジミーは、その大学生の手伝いをしてお金をもらっています。この大学生は、家以外にも「お客さん」がいるので、ジミーは他の家の芝の手入れも手伝って、一回一ドル二五セントもらっています。そのうちに、「独立」して、自分でアルバイトをすることになるはずですが、中学の一年生にとっては、大学生のアルバイトのアシスタントくらいが、ちょうどよい責任の取り方であり、収入だと私は思っています。
 雪の降る地域では、道路から家の入口まで、そして車庫から道路までの雪かきがずいぶんいいお金になります。年配の人にとって雪かきは、重労働です。しかもアメリカは心臓病の多い国です。心臓発作を防ぐため、ふだん運動をしていない三〇歳以上の人は雪かきをすべきでないという警告が、毎冬、新聞やテレビを通して流されます。また、健康な若い人でも、仕事が忙しくて雪かきまで手がまわらないことがあります。朝早く仕事に出なければいけないビジネス・マンが、なんとか車のところまでたどりついても、雪が深くて車が出せないこともあります。そんなとき、近所の子どもたちに電話をして雪かきを手伝ってもらうのです。あるいは冬の初めに、近所の子どもたちと契約しておいて、雪が降ったら朝の何時までにどことどこの雪を除けばよいのかを決めておきます。雪の量や、雪かきの広さにもよりますが、一九八六年には一時間五ドルくらいが、相場でした。
 女子高校生の場合には、ベビーシッターがよいアルバイトになります。ベビーシッターは一年中、自分の家の近くで手軽にできる仕事です。しかし、赤ん坊のおむつの取りかえ方とか、急に泣き出したらどうするのか、あるいは、万一、火事になったり泥棒が入ったりしたらどうするのか、等についての基礎知識を、事前にだれか(多くの場合はお母さんです)から教えてもらう必要があります。スーパーマーケットやタウン紙に広告を出して仕事を探す場合もありますが、ほとんど近所の人たちのクチコミで仕事が回ってきます。
責任感のあるベビーシッターが少ないので、信頼できるベビーシッターなら引く手数多だからです。
 ジミーが三歳のころ、近所の高校生をベビーシッターに頼んだのですが、ジミーを放っておいて友だちと電話で話をしていたらしく、私たちが帰ってきたときには、ジミーが家中にまいた暖炉の灰で目も当てられない状態でした。それ以後、別の人を頼みましたが、彼女はベビーシッターとしても信頼が厚いうえ、人気者でデートに誘われることが多いため、一週間以上前に予約をしておかないと、「すみません、もう予定がありますので」ということになって急にベビーシッターが必要なときには、まず頼めませんでした。
 最近はウイメンズ・リブ(女性の権利を社会全体で守って行こうとする運動)の影響もあって、働く女性の数も増えています。当然ベビーシッターの需要も増えています。きちんとした仕事のできる高校生が増えれば、高校生も親のほうも助かります。そのため高校のなかには、べビーシッターとして働くために必要な最低限の知識を教え始めたところもあります。





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